約 5,047,794 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1441.html
アイドルは神姫を救う? 後編 ここは神姫病院の一室、この部屋でシュートレイは療養していた。 「こんな所に神姫の病室があるなんて…。意外だな」 驚くいずるに、恒一はつぶやくように答えた。 「ここは元々事務所だったところに設立した病院だ。所々病院らしからぬところがあるのはそのためだろう」 「その通りよ」 後ろから小百合の声が返ってきた。 「神姫の病院だから人が治療するような施設は必要ないの。神姫はロボットだから、基本的には身体のメンテナンスや精神的な障害などを治す施設ということになるわね」 いずる達は病室の周りを見回した。周りには治療用の機械やベッド以外には何もない。完全に殺風景な部屋だ。 「こんなところで神姫たちは治療を受けてるのか…。他の部屋もそんな感じなんですか?」 「いいえ、これはシュートレイが望んだ事よ。今のところ彼女の心は空っぽの状態、なにをしても反応が返ってこないの」 いずるはシュートレイの姿を見て心が痛んだ。そして神姫も人間と同じ、傷つきやすい心を持っているということを改めて知った。 「…ミルキー」 「はい、分かってます。わたしの能力でシュートレイさんの閉ざされた心を開いて見せます。それが今のわたしの使命ですから」 ミルキーの決意にいずるは笑顔で答えた。 「それじゃ、治療する準備をするからシュートレイをベッドに寝かせて」 「じゃ、ホーリーがやりま~す」 そう言ってシュートレイのもとへ飛んでいこうとするホーリー。しかし、それを恒一が止めた。 「待ってくれ、これは俺がやるよ。今の俺にはこんな事しかできないからな」 恒一は包み込むようにしてシュートレイを持ち上げ、そのままベッドに運んだ。 「待ってろよシュートレイ、今助けてやるからな…」 シュートレイをベッドに寝かした恒一は、小百合の方を向いた。 「小百合さん、よろしくお願いします」 お辞儀をする恒一。どうやら彼も覚悟を決めたようだ。 「それじゃミルキー、ヒーリングの準備をして。さっき話した通りにやるのよ」 「はい、それでは行きます」 ミルキーはバトンを回してダンスを踊り始めた。 「これは、一体…?」 驚くいずる。このダンスの説明を小百合がすかさず答えた。 「ヒーリングダンス、つまり、治療するための儀式よ」 「…これって、関係あるんですか!?」 「黙って見てて、すぐに効果が現れるから」 ダンスを踊り続けるミルキーの周りに、なにやら優しげな光が放たれて、シュートレイを包み込んだ。 「一体どうなってるんだ?」 恒一もこの様子をみて驚きを隠せずにいた。 「彼女がトランス状態に入ったのよ、これからシュートレイの精神に入るわ」 「それってどういうこと…うわっ」 暖かな光は激しさを増したかと思うと、ベッドの周りを包み、あたりが静まり返った…。 静かな闇が広がる空間、そこにはまるで何もかも閉ざされている場所だった。 「ここがシュートレイさんの心の中…」 ミルキーは周りを見渡したが、闇に包まれて、何も見えない状態だった。 「どうしてこんなところになったんでしょう…」 暗い闇が広がるのを見て、ミルキーはあることに気付いた。 「シュートレイさんは前の事故で心を閉ざしてるのではないでしょうか。だとしたら、早いうちに心の中心部に向かわないと…!」 ミルキーは背中の翅を広げてシュートレイの心の中心部に向けて飛んだ。周りは薄暗い雲状なものに包まれて視界が狭まれているため、ミルキーは低空飛行で中枢まで飛ばなければいけなかった。 しばらくして闇の中からかすかに光っているところを、ミルキーは見つけた。 「もしかして、この光がシュートレイさんの心の中心…」 光の近くに降りたミルキーは、それに触れてみた。すると、光は眩く輝き、ミルキーを包み込むように中に入れた。 光の中は暖かく、まるで安らぎを感じさせる場所だった。 「ここはシュートレイさんの思い出の記憶なんですね。そうなると、ここにシュートレイさんの心が眠ってるかもしれませんね」 ミルキーは光が強い方向へ歩いていき、ついに心の中心にたどり着いた。 「これは…シュートレイさん!」 その中心にはカプセル状の中に入って眠っているシュートレイの姿があった。 「小百合さん、シュートレイの心を発見しました!」 インカムを通じて、小百合にシュートレイの心の中枢発見を報告するミルキー。小百合はしめたとばかりに指を鳴らした。 『発見したのね、それじゃあ、バトンを使って彼女の心にアクセスしてみて』 「はい、やってみます」 ミルキーは再びダンスを踊り、シュートレイの心のアクセスを試みた。 (お願い、シュートレイさんの心の扉を開いて…) バトンがカプセルに触れ、心にアクセスされる。そしてその瞬間、ミルキーはシュートレイの心の中枢部に入っていった。 「これがシュートレイさんの心の最深部?」 『どうやらここが彼女の思い出の本体という訳ね』 そこはシュートレイの思い出が集った場所だった。恒一と出会った思い出、一緒に勉強した思い出、そしてパートナーとして闘った思い出…。様々な思い出がこの中にあふれていた。 「でも、どうしてこの場所に集ってるのかしら?普通なら広い範囲に記憶が広がってるはずなのに…」 「おそらくあいつは心を閉ざしてるんじゃないかな」 光に包まれたシュートレイの側に座っている恒一が答えた。 「あいつはあのときの試合で心に深い傷を負ってしまった。それが原因で自分の心の殻に閉じこもってしまったんだ。…俺のせいでこいつはこんな目になってしまったんだ…」 唇をかみ締め、恒一は悲しみを抑えていた。あんな姿のシュートレイを見てしまった彼の心境は複雑であるに違いない。 「心配するな恒一、シュートレイはきっとお前の助けを待ってるはずだ。今は彼女を闇に中から救出することが先だろ」 「いずる…お前って奴は…」 恒一は涙を流しながらいずるに礼を言った。 「さあ恒一、シュートレイを目覚めさせてやるんだ。これはパートナーのお前にしかできないはずだ」 「ああ、分かった」 いずるに背を押され、恒一はシュートレイのそばに近づいた。 「恒一くん、あなたの想いをシュートレイに伝えてあげて。それで彼女を目覚めさせるきっかけになるかも知れないわ」 小百合はヘッドギアを恒一に渡し、シュートレイに呼びかけるように指示した。恒一は何も言わずにギアをかぶった。 『ミルキー、聞こえる?今からあなたを介して恒一くんの意思をシュートレイに伝えるから、アクセスの準備をして』 ミルキーは頷くと、バトンを回転させてシュートレイの心に向けて送信した。 「シュートレイさん、恒一さんの気持ちを受け取って…!」 その瞬間、恒一が被っているヘッドギアにシュートレイの心の中らしき映像が映し出された。 「これが、シュートレイの心の中か…ここまで小さくなってるなんて」 映像越しにシュートレイの心の中を見る恒一。相棒の心の中がこんな状態と知った今、彼は自分の気持ちを伝えるべく、一言ずつ噛みしめながら叫んだ。 「聞こえるかシュートレイ、お前を救いにきたぞ」 しかし恒一の叫びはシュートレイには聞こえていないようだ。それにもめげずに恒一は彼女に向かって叫び続けた。 「覚えてるか、あの日のことを。お前と俺が始めて出会ったときのことだ。あの時は俺もビックリしたよ。そのときお前はにっこり笑って答えたなあ。それからは一緒に遊んだり、本を読んであげたりしてたっけ…。お前が成長していく姿を見て、俺はお前と一緒に付き合っていこうと決意したんだ」 恒一の叫びが伝わったのか、シュートレイが眠るカプセルに変化が現れた。 「恒一さん、シュートレイさんの様子が少しずつですが変化が見られます!」 その様子に驚くミルキー。続けて恒一はシュートレイとの思い出を語り続けた。 「初めてのバトルのときもお前は諦めずに闘ったな。正直言うと俺は心の中では何度も諦めかけていたんだ。それでもお前の活躍ぶりを見てると、そんなことはあっという間に消え去った。今の俺がいるのも、お前がいるからなんだ」 恒一はありったけの思い出を話し、シュートレイを目覚めさせようとした。それに反応してシュートレイにまわりに包まれているカプセルにひびが入り始めた。 「…あの時も俺が止めていればこんな事にはならなかったはずだった。でもお前は勇敢に闘った。そのときに俺はお前の気持ちを分かってあげられなかったんじゃないかと後悔してるんだ。ごめんよシュートレイ、もしそのことで怒っているなら俺を叱ってくれ」 『・・・そんな悲しいこと、言わないでください』 カプセルからシュートレイの声が聞こえたと思うと、カプセルが割れ、彼女の姿が現れた。 「あの時は私もダメだと思っていました。試合に敗れたとき、もう死んでしまうかもしれないと覚悟を決めていましたから。それにあのときの出来事がプレイバックしてしまって、心に中に恐怖心が植えつけられてしまったのです。でも、隊長の思いを受け取る事で私はこうやって自分の殻を破る事ができました。有難うございます」 「礼を言いたいのは俺の方さ。お帰り、シュートレイ」 恒一は照れながらシュートレイに礼を言った。それに反応して、シュートレイの顔も真っ赤になった。 『二人とも、悪いけどこんな所でいちゃついてないでさっさと戻ってらっしゃい。あんな場面見てるとこっちも真っ赤になっちゃうわ』 少し照れながら話す小百合を見て、恒一達は笑いをこらえていた。 「そうだな、もう少しお前と等身大で話したかったけど、ギャラリーがあんなじゃ、おちおち話すこともできねえや」 恒一の照れた顔を見て、シュートレイはくすくす笑った。 『ミルキー、頼むぞ』 いずるの言葉に答えて、ミルキーは頷いた。 「それでは皆さん、元の場所に戻りましょう」 ミルキーはバトンを回して恒一達を元の場所に戻した。 それから数週間後、元気にバトルをしている恒一とシュートレイの姿があった。 「やりましたシュートレイ選手、今回もバトルマッチで最高得点を挙げました!!」 あのトラウマはどこへ行ったのか、いつものように勝どきを上げて観客にアピールするシュートレイ。どうやら完全復活した様子だ。 「どうやらシュートレイは完全に立ち直ったようね」 観客席でバトルを観ていた小百合たちは、シュートレイの活躍ぶりを見てホッとしていた。 「もうこれで元通りになったね!」 「これもみんなミルキーのおかげさ。ありがとう、ミルキー」 いずるは肩に乗っていたミルキーを掌に乗せ、頭を撫でてあげた。 「い、いえ、あのときは二人の手伝いをしただけでしから…」 ミルキーは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに答えた。 「ミルキー、あのときのシュートレイのように顔が真っ赤になってるよ」 ミルキーの様子をみて、ホーリーは驚いていた。 「あ、そろそろあの二人が控え室に戻る頃ね。早く復活したお二人さんを迎えないとね」 時計を見て小百合はいずるの背を押して早く行くようにせかした。 「小百合さん、そんなに慌てなくても大丈夫ですから」 「一刻も早く行ってあげないとダメじゃない、さ、早く行きましょう」 会場を後にするいずる達。今回の出来事でいずるは神姫の友情がどんなに大切なものなのかを改めて考えさせられた。そしてこれからもホーリーとミルキーのことを大事にしようと決心したのだった。 つづく もどる 第十二話へGO
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/788.html
戦うことを忘れた武装神姫 その28 ・・・鳳凰カップ初日。 大勢の人でにぎわう企業ブースの一角に、久遠と彼の神姫たちが居た。 バトルにあまり熱心でない彼らにとっては、むしろこちらの物販だの展示だのがメイン・・・。 やがて彼らは東杜田技研のブース前へ到着。物販コーナーではどこかで見た顔・・・ 「あれ? かえでちゃん。 何してるの?」 久遠のポケットから、リゼが声をかける。 「ふ、ふええぇ~! 久遠さん、助けてくださぁ~い!!」 商品の補充をしながら半泣き顔のかえで。 聞けば、はじめは試合に出るつもりでいたのが、いつの間にか東杜田技研のアルバイトとしての参加になり・・・ 「私たちもこの有様です。」 これまたげっそりした顔で、かえでの肩に乗るフィーナ。技研の名の入った神姫サイズのジャケットを着用し、手には「先行販売・受付」と書かれたプラカード。 「にゃーん、エルガー! 手伝ってよー!」 と、傍らからティナのこれまたしなしなの声。いつぞやの猫耳ロリータファッションを着せられて、売り子をさせられている模様。。。 ふと見回せば、周囲は会待ちのお客さんがわんさといるし、何かの整理券を配っている列はダンゴ状態・・・ 「・・・なんと手際の悪い。」 久遠の肩に乗るシンメイが呟いた。 「なんだかCTaに挨拶しようと思ったけどそれどころじゃn・・・」 と、久遠がぼそり呟いたときだった。 「居た!! 久遠発見!! 直ちに捕獲せよ!!!」 聞き飽きるほど聞き慣れた声と共に、久遠に網がかぶせられた。 「よっしゃ! 久遠捕獲成功!」 動じることもなくため息ひとつの久遠の前に、油くさいメイド姿のCTaが立っていた。 彼女のポケットには、特殊な形状の巨大な砲を構える砲子が左右に一人ずつ。。。 「・・・をい。」 網を取りながらジト目でC睨む久遠に、珍しくちょっと退くCTa。 「拉致するわけじゃないんだから、なにもそいつらの装備試験を俺ですることはないだろう。」 CTaの砲子をさしながら久遠が怒りを通り越してあきれた顔つきで指摘した。 「ありゃ、テスト運用だってわかった?」 「命中精度がイマイチ。そして火薬量多すぎ。」 一瞬の出来事でありながら、きっちり分析する久遠にちょっと驚くかえでたち。。。 「まぁ、それはどうでもいいけど。」 たたんだ網をCTaに手渡し、 「手伝って欲しいのなら事前に予約入れること。 まぁ、予測の範囲内ではあるけれど。 なぁ、お前たち。」 『はーい!!』 ごそごそと久遠のポケットにもぐっていた、彼の神姫たちが一斉に顔を出した。 エルガとシンメイは作業用エプロン姿で。イオとリゼは、おそらくリゼがこしらえたものであろう、それぞれ白と黒のエプロンドレスで。 「・・・。」 CTaは驚きで言葉が出ない。 「さっき休憩してるときに、ここが大混乱してるって聞いたからな。 いつも世話になってるからたまには良いかなと思ってね。 で、この混乱を作り出した原因でもある責任者は?」 久遠の言葉に、むっとして頬を膨らませ自らを指さすCTa。 「ありゃ、お前だったのか。 ・・・学生ん時から仕切るのは苦手だったもんな・・・貧乏籤引いたな?」 こくりとCTaは頷いた。 「ま、詳しいハナシはあとでするとして。 あとはウチらに任せておけ。な。」 言うが否や、自らも作業用エプロン姿 -エルガ・シンメイとお揃い- に着替えた。 「まずは・・・ここの配置表、タイムテーブル、その他一式ここに出す!」 久遠が言うと、すすっとヴェルナが傍らから現れて東杜田技研・社用PDAを手渡した。 「ふむ・・・む。 まずは物販だな。 イオ、まだ飛べるだけの余力はあるかな?」 「もちろんです、マスター!」 「じゃ、これをこうしてだ。。。」 メモ用紙を取りだし、さらさらと指示を書き留めると、CTaにサインを入れさせた。 「ほい、それじゃ物販はイオとシンメイで。」 「了解しました!」 メモを受け取ったシンメイは敬礼で応える。 「ではシンメイ、いきましょう!」 イオはさっとユニットを背負い、シンメイを抱き上げて混乱の度合いが増している物販コーナーへと突撃していった。 「で、展示は・・・ なるなる。 Mk-Zに丸投げでOKだな。 Mk-Zとマーヤだけで回転するはずだから、余った人員は物販の誘導に今すぐ廻して。 エルガ、このメモを展示コーナーに。」 「了解なのー!!!」 武装にエプロンという姿で待機していたエルガは、どこからか取りだした紐でメモを身体に縛り付け、 「にゃー!!! 仔猫の宅○便がいくのだー!! そこ、邪魔なのー!!!」 四脚で混雑極まる中へと駆け出した。 「で、あとはデモコーナーだけど。 これは・・・リゼとかえでちゃんたちで良いかな。」 「え・・・? 物販は・・・?」 先まで人混みの中でもまれていたかえでは、本当にこれでよいのかという顔付き。 「大丈夫。 あと15分でこの状況はおさまるはず。 CTa、悪いけどリゼにデモ機の使用方法その他を教えてやってくれないか。」 自信たっぷりの久遠に、CTaもまたちょっと怪訝そうな顔をしたが、このような場での久遠には絶対の信頼を置いているCTaは、久遠からリゼを受け取ると、かえで・ティナ・フィーナと共にデモコーナーへと向かった。 それから10分も経たずして。 動き始める購入客、整理券配布場所の列。 展示コーナーにあふれ返っていた人だかりは、きれいな流れができて。 久遠の宣言したとおり、15分で・・・状況は一転。 先までの混乱が嘘のように、ブースは落ち着きを取り戻した。 「・・・久遠さんってすごいんですね・・・。」 デモコーナーでセッティングを終えたかえでが、ティナを手に乗せて言った。 「それがあいつの能力のひとつだよ・・・良かれ悪かれ一歩先を読んで行動できるところが。。。」 リゼにクレイドルの取り扱いを教えながら、CTaは呟くように言った。 「だからなんだよなぁ・・・。」 と、CTaのついたため息にリゼが気づいた。 「・・・? だからどうしたの?」 目が泳ぐCTaに、ニヤニヤとするリゼ。 「・・・何でもない。 ほら、さっさと仕事に入る! お客は待っているんだからっ!」 CTaはリゼをつまみ上げ、放っぽり投げるようにデモ用のクレイドルへと乗せた。 振り返りまだニヤニヤするリゼに手を振って仕事するように指示すると、リゼはぱっと営業スマイルに切り替え、クレイドルの解説を始めた。 傍らでパワーユニットの仕度をしていた沙羅とヴェルナが、相変わらずの調子で呟いていた。 「・・・マスターももっと素直になった方がいいでしょうに・・・。」 「全くっすよ。それでどれだけ損をしていることか。」 2人は顔を見合わせ、 『はぁ。。。』 いつぞやと同じ、大きなため息をひとつ。 そこへ久遠登場。 「どうした? CTaがまた何かやらかしたか?」 「あ、久遠さん。 何でもないっす。 いや、すごいっすね! あっという間にあれだけの状況を捌いてしまうなんて。」 と、振り返る沙羅。 「そうか? これだけのいい人員が居るんだ、こうなって然るべきなんだよ。 あとはどれだけ効率よく配置できるか・・・こればかりは慣れだからね。 こっちは大丈夫かな?」 「大丈夫ですよ。 あとはどのタイミングで昼休みを入れるか、ですが・・・」 とヴェルナが言うが否や、久遠は新たな指示書を手渡した。 「はい、これ。 回転始めたから、改めてタイムテーブル作ったから。」 その仕事の速さに、再び目を丸くするかえでたち。 「ふむ。。。 あとは展示コーナーか。。。」 ざっと見回して状況を確認した久遠は、そそくさとその場を後にした。 CTaは久々に見る、かえでは初めて見る久遠の本気モードに、ただただ驚くばかりであった。。。 その後、東杜田のブースは大いに盛り上がったという。 久遠の活躍もあったが、彼らの神姫、そして東杜田の社員の神姫たちと・・・マスターと神姫たち、皆の手で作り上げられて行く東杜田のブース。 久遠が、全員に廻したメモにはこう記されていたという。 -今日は武装神姫のお祭り、神姫もマスターも、みんなで楽しまなくっちゃ- お祭りを楽しむマスターと、盛り上げる神姫たち。 ここにいるのは、戦うことを忘れた武装神姫。。。 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/307.html
注意 この話は相当過激な内容が含まれています。 たぶんのwikiに掲載されるSSのの中でも1番非道であろう人間が登場します。 なので下記の注意を熟読し、覚悟を置いてからご覧ください。 その1、神姫に対する第12話以上の暴力描写が出ます。 その2、ある地域の集団の姿が描かれますがこれは実在の団体、組織は関係なく全くのフィクションです。 その3、ある意味究極に近い残虐、犯罪表現があるので自分的に18禁レーティングでも掲載してよいものか?と考えさせられました。でもあえてのせます。 倫理的問題があれば即刻削除しますので厳しい目でコメント等での連絡お願いします。 その4、今回の話は読まなくても本編の話の筋に支障はありません。 なのでこういった表現のお嫌いな方、呼んでいる途中で気分を悪くされた方は即刻ブラウザの戻るボタンを押してください。 その5(これは見なくても全く問題ありません)、この話のセリフは全て外国語だと思ってください。まあ吹き替えなイメージで。 武装神姫のリン インタールード1「煉獄」 中央アジアの某国の中心都市。 そこは第2次世界大戦後の日本を再現するかの様な高度経済成長を遂げ、今では高さが数百メートルを超えるビルが立ち並ぶ。 しかしその一方で犯罪の種類も多様になった。 貧富の差もいっそう激しくなりダウンタウンでは暴動や強盗、略奪が繰り返される。 そんなダウンタウンでも通常はこういった街で力をもつであろうチンピラやギャングといった集団でさえ深夜は人が寄り付かない場所がある。 それは寂れた5階建てのビル。 20世紀の末に建設されてであろうソレの外装は酸性雨やその他もろもろの影響ではがれ、所により鉄筋のフレームが買垣間見える。 そんなビルの1階だけが外装を交換され、バーらしき看板を構えている。 もちろん昼間は普通にバーとして利用されるし客のタイプも多様だ。 しかし深夜は昼の様子がうそのようにドア部分には大きな鉄の格子、いやそれは正に網。隙間は数センチしかなくドアの元の色がかくれるぐらいだった…それがが出現し、黒服の男が門前を固めた。 午後10時を回った頃。 大き目のハイヤーが乗り付け、ドアが開く。 そこからはかなり美形といえるであろう男が現れた。 彼はその国で人気のファッション誌のトップモデルであり、正にスターというのにふさわしい。 そんな男がなぜこんな所にくるのか? 男は黒服にメダルを見せる。それは"契約者"である証。 それを見ると黒服は懐から無線機らしき端末を取り出して報告。 そうしてやっと鉄の格子が地面へ吸い込まれるように身を潜めた。 男はドアをくぐり、昼は隠されている地下へ続く階段を下り、地下室にたどり着く。 ソコには数人の同じくアジア系の男が数人いた。そのなかのリーダー格であろう男が"客"に声をかけた。 「いらっしゃいませ」 「やあ、今日も来ちゃったよ」 「いえいえ、貴方様はお得意様ですから。大歓迎ですよ」 会話は数秒。 そして"客"から男に大量の紙幣が渡される。 「確かに、3回分ですね」 「ああ、今日も3時間たっぷりと楽しませてもらうよ」 そうして男はその先にある個室へ入る。 ソコには3つのベッドと女性の体が、しかしそれは本物ではない。 『ドール』とよばれ、AIを搭載した擬似的にSEXを行うための機械。今で言えばゲームに出てくるようなアンドロイドに近い。 が、法律の網をくぐるギリギリの物品のために日本製ロボのような本物に近い感情表現は出来ない。 ただ男性の興奮を促す動きをするだけだった。 それがベッドに横たわっている。 しかし先ほど男が払った金額はそのアンドロイドが普通に1体、それ以上は買える金額だ、ならなぜ? 「あ……!!!」 突然ソレが声を上げる。確かに音声を発することも可能だが、この声の震えは明らかに恐怖を感じているときにしか出ない声だった。 「今日も君が1番かいいねえ、ここは客の趣向を良くわかってる」 男が擬体に触れる。 「やめ……やぁ…!!」 「うーん、反応が実にいい。こんな身体だというのに、クックック」 男が触れた擬体は明らかに成人女性のモノとは違う。 どう見てもそれは少女そのものと言えるサイズである。 そしてその擬体の頭部は無く、そこには人間の頭部と同じほどのサイズの基盤、そして基盤の上のマットには本来この国では販売されていないはずの神姫-ハウリンタイプが体中に基盤から出たコードをつながれ拘束されている。 即ち…極限に生に近い感覚を男性に感じさせるようにアンドロイドの擬体につなげたのだ、神姫の頭脳、そして体の全ての感覚を。 「やだ、やめてよ、やめてえ!!!」 ハウリンがマット上で手足を動かす、だが擬体は動かない。 神姫側からの命令は受け付けないからだった。 「うるさいよ、今夜も俺に犯され、尽くすんだ。」 「ヒィ!!!!!!」 おもむろに擬体の局部、まだ二次性徴さえ起こしていない形状、サイズ。 スリットにしか見えないそれを無理やり両手で広げ、指を突っ込む。 「ヒグギュィ!!」 もちろん男はローション等は使用していない。 そのためハウリンを通常のバトルでは経験しえない激しい痛みが襲う。 「まだまだ、泣くには早いよ」 モデルの仕事の際には決して見せないであろう歪んだ笑顔で言葉を返す男。 「ほら、もう濡れてきた。反応がはやくて助かるよ」 そして男が指を引き抜く。そこには微量ではあるが愛液に似た液体が糸を引いていた。 「あ…ぅぅう」 「もう十分だろう?さあ、挿れるよ」 「そ…んな、まだ」 無言で男は先ほどと同じように全くの加減もなしにそそりたった一物をドールのそれに無理やりに挿入した。 「あ!!ああぐぅいうううううう!!」 悲鳴というにもあまりに悲壮な声を上げるハウリン。 男のモノはその穴には大きすぎる。 もちろんドールはそういった問題もクリア出来る。 「ピッ」 処女膜を貫くのとは違う、明らかに肉を裂く音が聞こえた。 「あぁaaaaaa………!!!!!!!!!!」 その音を聞いても動じず、そのまま男は無言でピストン運動を始めた。 個室に神姫の小さな口からは想像も出来ないボリュームの悲鳴が木霊す。 そう、この擬体の局部上面には小さな切れ目が入っており、限界を超えるとそれにあわせて身が裂けるように調整されていた。 その痛みは戦闘でも決して感じることがありえない、人間の少女ならその痛みに耐え切れずほとんどの場合ショック死、もしくは失血死するからだ。 そんな痛みを安全装置の解除で強制的に覚醒させられ続け、意識を途切れさせることを許されず感じさせられ続けるハウリン。 彼女の"痛み"を彼女以外の誰がわかってあげられるだろうか? 確かに幼女愛好の趣味を持ち、それがエスカレートして犯罪に手を染める者もいるだろう。だがそれは相当なリスクを伴うことであり、捕まればほぼ刑務所からは一生出られない。 しかしこのケースどうだろうか? 神姫はあくまで玩具。おもちゃの部類で感情がどれだけ豊かだろうが「人権」といった物は彼女たちには認められない。 なら、神姫と無理やりに性交を行うことは犯罪でありえるか? 答えはNo。 もちろんこの小説の主人公である藤堂 亮輔とリンが直接繋がると言う事象はありえない。確立はゼロである。 身体のサイズをこのような15cmサイズに決定したのは、かわいらしさもあるがマスターと神姫が直接交わることが出来ないようにという意味もある。 それは神姫を開発した科学者たちが課した"けじめ"である。 それをこのような方法で回避すると言うのは思いつかないことは無いだろう。 だがこのドール自体日本には流通しない。 大きさの問題でなんとかアジアの闇ルートで流通するのみだ。だから間違ってもこのような事態が日本国内で起こることは無い。 このハウリンも少なくとも日本で流通するものとは言語系統が違う。 多分欧米諸国で販売されているモデルであろうと推測される。 「んkdんすぁhgりわんrgん・kにいkぃぃ!!!!」 ハウリンの人工脳にあふれる情報の種類。それは痛覚。 普通のマスターの元に行けば、もしくは多少は人格の歪んだオーナーでもここまでひどい行いはなかっただろう。 腕や足が千切れたなら反対の手足で動けばいい。 たとえ腹に風穴を開けられてでもこのハウリンは素体が動く限り平然と戦闘を続けられるのではないか? そう予想してしまうほど、ハウリンの感じるソレは強く、激しい。 絶えず与えられる痛覚情報の連続処理によって、人工脳の限界を超えてオーバーヒート寸前のハウリンの頭部から煙が漏れてきた。 「ふぅ!!! そろそろか!!」 それを確認して男はそれまででも常人であれば十分に快感を得、絶頂を迎えるであろう頻度のピストンの速度をさらに上げた。 「荷shフェウw場ウgrジェ苗wkgんrかん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ggkくぁ」 彼女の痛みを表す言葉がもしあるとしたら、それは地獄の業火、"煉獄"。これしか思い当たる節は無い。 そうして完全な機能停止、もしくは完全に人工脳が焼きつき、壊れる寸前なのを知ってか知らずか、それでも男のピストン運動は止まらない。 「くっ、ハッッ!!」 そうしてやっとのことで男は1回目の射精を迎えた。 少女の身体を模した擬体の内部で水風船を破裂させたかのような勢いで濁液が放出され、すぐに許容量を超えて隙間からあふれ出す。 そうして開放されたハウリン。 だが男は部屋の奥、カーテンを開ける。 ソコには成人女性のサイズのドールが同じ体勢で待機しており、その頭部には同じようにアーンヴァルタイプの神姫が接続されていた。 「k、きゃぁああああああ!!」 アーンヴァルは男を確認したとたんに発狂したかのような悲鳴に近い絶叫をあげてオーバーヒート。頭部からはすでに先のハウリンと同じような焦げた臭いがした。 中枢ではないが、内部回路がいかれたらしい。 男は"店主"を呼ぶ 「おい、"教育"がなってないな。俺を見ただけでコレだ…」 「もうしわけございません、なにぶん前回の記憶がトラウマになっているらしく…」 「いいから代わりをよこせ、まだ1発目なんだ」 「はい、ただいま…」 そうして部屋を後にする"店主" 「ふん、幼女愛好趣味で極上のサディスティック。最低の性癖を持つ野郎だ、だが最高級の金づるだ。しっかりサービスはしておくことにしよう」 そう階段を上りつつ呟いた。 そうして"客"は神姫との擬似性交を楽しむ。 そうして予定の3時間が過ぎようとしたころ。 "店主"は予想もしない連絡を受ける。 それは 「本部サーバー中枢に大部隊での神姫による襲撃アリ、至急帰還求む、繰り返す……」 そう、SSFとリン・ティアをはじめとした神姫犯罪を憎む者、職として、または信念を持って正義を振りかざす者。 それら全てが彼ら、「べーオウルフ」を裁きにやってきた。 そしてその部隊の一部はその"バー"をもすでに包囲していることを"客"はおろか、"店主"をはじめとした「べーオウルフ」メンバーさえも気付いていなかったのだ… 第13話へ続く TOPへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1547.html
新しき風と、揺れ動く錬金術師達(その一) ──遂に吹いた新しき風。それこそ、災禍と幸福をもたらす因果の使者。 それは私と大切な“妹”達の運命を押し流して、歪めて往く激流である。 初めは、何という事のない事故の筈だった……私が、気付くまでは──。 第一節:契機 今日、私・槇野晶は渋谷に出てきている。年も明けて暫く経ち、材料類や 新たな資料を求めて、この街へと出てきたのだ。見る物や荷物は多いが、 私には心強い助っ人達が居る。そう……言うまでもなく“妹”達の事だ。 「よい、しょ……晶お姉ちゃん、買い物はこれで全部ですの~?とと」 「おお、大丈夫か葵や?そうだな、お前達……のHVIFの分も完了」 「……後は、また春の新作とかを見物して帰るのかな。マイスター?」 「有無、それで渋谷へ出てきた用事は全て完了する。手早く行こうか」 「はいっ!あ、マイスターマイスター!あれなんか……どうですか?」 葵……即ちロッテのHVIF使用バージョンと私で荷物を分担し、他の “妹”達は、私達二人の胸ポケットを占拠して辺りを窺っている。街は 新年を迎えたとあってか、去年と違う活気に満ちた空気を持っている。 それに触発されて、私の財布も少々緩み勝ち……には、ならなかった。 何故なら、私自身が必要とする以外は全て神姫達に必要な物。この街で ピンチになる程人間の衣料を買い込むという事は、それ故に有り得ぬ。 「ふむ……些か堅苦しいな。クララが勉強する際には、良さそうだが」 「それって“制服”って言ってるのと同じなんだよ、マイスター……」 「制服が着たいなら、神姫基準で作ってやっても良いが……学校はな」 「服装だけだとコスプレですの。ある意味わたし達にはいいですけど」 「それに“梓”の通学着だって、十分それっぽいデザインなんだよ?」 HVIF用に作って着せてもよいのだが、それも趣味以上にはならん。 結局“制服”にも似た街頭の展示物は撮影だけして、見送る事とした。 ……でも、制服姿のロッテ達も可愛いかもしれん。う、いやいやっ!? 「……ま、マイスター?どうしたんですか、真っ赤になって首振って」 「な゛!?な、なんでもない!なんでもないぞアルマや……その筈だ」 「最近のマイスターって、妄想が強くなってる気もするんだよ。うん」 「でもでも、全部わたし達での妄想ですし……悪い気はしませんの♪」 何も言えなかった。実際、あの“告白”を受けてからというものの…… 私の中を占める彼女らの存在は、日を追って大きくなっていたのだな。 妄想というか、彼女らの事を想う時間も徐々に増えている。今までも、 想ってはいたのだが……その頻度や深度も、比例しているのが現状だ。 「う、う~む……帰ろうか。家でお前達とゆっくりしたくなった気分だ」 「え?もういいんですの、晶お姉ちゃん?いつもだと、後三十分位……」 「構わぬ。十分な映像資料は取れた、後は駅に入るまでの道で調べよう」 「じゃあ帰ったら、のんびりお茶でも呑んでお客を待ちましょうかっ!」 「ボクは温かいココアがいいんだよ。ほっとするもん……じゃ、行こ?」 だが、相変わらずそれを深く考える事は出来ずにいた。考えた時に何時も 私の心を縛り付ける“荊”。新年になっても、私の意気地無しは同じだ。 この娘らを信じ切れていないのか、と想うと……それもまた切なくなる。 故にこそ、常日頃は何も考えず。夜に一人で思い続ける日々を過ごした。 「……新しい風が吹けば、本当に変われるのだろうにな。私とて……」 「大丈夫ですの、何時も待っていますの……マイスターが苦しむなら」 「言える時までずっと待ちます。無理強いなんて、出来ませんからね」 「……少し寂しいけど、ね。それがボクらの出来る事なんだよ……?」 そんな雰囲気は、この娘らもきっちりと掴んでいた。その上で、何時も 好意的に黙殺してくれているのだ。しかし、何時までもそうはいかん。 本当に、何か契機となる出来事は無い物か?渋谷駅に入って、山手線に 乗るまでの間、帰り道の取材などせずに……私はそれをずっと考えた。 「……ま、とりあえず一度お茶でも呑んで落ち着いて……それからか」 「今日はずっと側にいますの♪HVIFの当番も、今回は連続ですし」 「う、うむ……アルマとクララも、今は一緒にくつろごうではないか」 『はいッ!!』 しかし、何一つ糸口がない以上は名案が浮かぶ事もない。結局、すぐに 秋葉原へと到着してしまい、仕方なく私は混み始めた列車から降りる。 そして、電気街口からのんびりと歩いて……ふと、道路の対岸を見た。 「しかし、この街は何時でも変わらぬな……活気と熱気に溢れ──」 そんな何気ない日常の言葉は、最後まで続かなかった。声を掻き消すのは 盛大な轟音。目を焼くのは、対岸のビルから弾け飛ぶ異質な閃光。そう、 紛れもなくそれは……爆発だった。石礫が道に飛び散り、ビルに掛かった ゲームセンターの看板が、鈍く軋んだ音を立てて崩れ落ちたのだ……!! 「な……う、ううぉっ!?なんだ、これは!!爆発火災かッ……!?」 「だ、大丈夫ですのマイスター!……じゃない、晶お姉ちゃん……!」 咄嗟にロッテ、じゃない……葵が私の躯を支えてくれる。爆風で蹌踉めき 倒れそうになった所を抱きすくめてくれたのだ。助かった……が、これは 一体どういう事なのだ。アルマとクララも、異常事態に若干混乱を来す。 「ぅぅ……耳が、揺れます。な、何が起こったんですマイスター?!」 「あっちのビルで、爆発なんだよ……人、集まりだしたみたいだもん」 「こ、これは……一度“ALChemist”に戻る。状況把握はその後だ!」 『はいっ!!!』 ──────なんだろう、とても嫌な予感がするよ……。 第二節:烙印 今日の秋葉原はカレンダー上の休日等ではなく、何かの発売日でもない。 しかし飛び散った破片や落下物等で躯を斬る者、転倒してコブを作る者、 爆発のショックで運転操作を誤って、事故を起こす者などが何名か居た。 「く、これは……何でこんな事になったのだ!兎に角、警察と救急か」 「消防も要請した方がいいかもしれませんの!ボヤっぽいですし……」 荷物を万世橋無線会館に置いて、現場へと引き返した私達が見た物は、 まさしく地獄だった。パニックを起こした周辺は騒然となり、致命的な 怪我を負ってこそいない物の、多少の血を流して蹲る者は散見される。 この光景は、私の脳にある記憶を酷く揺さぶる……正直、気分が悪い。 「……神姫は、神姫達は大丈夫ですか!こんな爆風に巻かれたら!?」 「衝撃で破損する可能性も無くはない……く、どうなっているのだ!」 「一応塾の友達は……居ないかな。大丈夫かな、心配なんだよ……!」 各々の事情に従い各々が不安に陥る。万世橋署の人員が黄色の規制線を 張って、消防が駆けつけボヤを消し止める。更に、怪我人は周辺店舗の 協力もあってすぐに救急車で病院へ連れて行かれた……それでも、皆の 不安と恐怖は、すぐに消え去る物ではない。対岸の火事ではなく、すぐ 目の前で起きた惨事なのだ。これをやり過ごす事など、そうは出来ん! 「神姫が壊れた、って話はまだない様ですね。無事ならいいけど……」 「……一応塾の友達が一人、ちょっと怪我をして運ばれたらしいもん」 「行かなくていいのか、クララや……いや、神姫の姿では拙いな……」 「……別に大事には至ってないそうだから、後で電話だけするんだよ」 「噂だと、吹き飛んだのは看板だけでビルの中身は無事だそうですの」 辺りをかけずり回り電話や近所のコネを使いまくって、状況を調べる。 必要以上の干渉かもしれんが、これを放置してはいけない。何故だか、 そういう予感が私達の中にあったのだ。御陰で、不可解な点も見えた。 「あの壁の抉れ形……どうも、それほど巨大な爆弾では無い様だな……」 「え……爆弾、ですの?!なんで晶お姉ちゃん、わかるんですの……?」 「……これでも、神姫の武装を扱える人間だぞ。火器類には多少詳しい」 そのサイズに比例しつつも多少は強力な爆弾による、人為的な犯行か…… 更に“ビルに掛かる看板”等という際どい所に、爆弾を仕掛けられる様な 人間がそうは居るとも思えない。だがもし、これが事故でないとするなら それは……即ち、私の全存在を震撼させるだけの“過去の再来”だった。 「……いかん、思考が纏まらなくなってきた。一度静かな場所に動くぞ」 「マイスター、大丈夫ですか……?なんだか真っ青ですよ、顔とか……」 「分かっている、分かっているアルマや……クララとロッテも案ずるな」 「案ずるな、って言っても……流石に動揺しすぎな気もしますの~……」 “悪い予感”に翻弄された私は、貧血でも起こしそうな目眩を覚えつつ 人混みから路地へと入る。そこは、現場から直線距離で数十メートル。 道なりに行けば、すぐに来られる様な場所だった。そこで、私は壁へと もたれかかり……ふと、地面を見下ろす。それが、いけなかった……。 「む?……これは……これは、そんな馬鹿な……!?何故、これが!」 「え、え?……マイスター、いきなりどうしたのかな。地面に何か?」 「きゃっ!?いきなり動かないでください、ポケットから堕ちます!」 訝しがるクララの声も、私の動きに出るアルマの悲鳴さえ聞こえない。 私の全神経は、アスファルトに堕ちていた“それ”へと注がれていた。 それは……凄く小さな、電磁吸着面を備える“黒い紋章”だった……! 「……マイスター、この樹に蛇が絡みついたような紋章って……?」 「な、なんだかおどろおどろしくて……不気味な印象ですねぇ……」 「でもこれ、よく見て。電磁吸着面があるから……MMS用なんだよ」 全ての音が遠くなる、全ての景色がぼやけていく。私の図太い神経さえ、 この現実を突きつけられた今となっては、か細い糸でしかない……そして 私は遂に、己で立っている事さえ出来ず……葵に小さな躯を委ねたのだ。 「え!?ちょ、ちょっとお姉ちゃんッ!?どうしちゃいましたの!?」 「マイスター!しっかりして、マイスター!?ど、どうします……?」 「……とりあえず、葵お姉ちゃん。お店まで連れて行ってほしいもん」 「はいですの……マイスター、もしかして“あの事”と関係が……?」 ──────呪われた運命は、どこまでも私達を追い掛けるよ……。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1573.html
過去と流血に囚われし、嘆きの姫(その二) 第三節:怨霊 ゆっくりと、幽鬼の様な動きでその姿を見せたのは……神姫ともその他の MMSとも判断しがたい、軍隊風の装束に身を包んだ12センチの少女だ。 否……軍隊風、というのは正確でない。どちらかというと“戦闘機”だ。 流暢な日本語で捲し立てるその娘を見て、私は率直にそんな印象を抱く。 「来るなって、言ってるでしょ!?……貴女、やっぱり当局なのね!」 「日本語が分かるのか。いや、私達は権力を持たぬ……只の民間人だ」 「嘘よ!アタシを叩き壊す為に来たのよ、奪う為なんだわ!そうよ!」 「マイスター、この娘……脚が……ううん、腕も全部……武器ですの」 ロッテが青ざめた様な表情で呟く。彼女の言う通り、私達の眼前に居る MMSの姿は酷く歪だった。両脚が、無骨な武器に置換されていたのだ。 左脚は、膝にパイルバンカーらしき杭が見える。脛にもシリンダー風の 構造物があるが、これも恐らくは何らかの武装だろう。足は人のそれと 違い、ソリの様な板状の装置になっていた。右脚も同様だが、こちらは 膝にアンカーの様な物とリールが見て取れた。ワイヤーランチャーか? 両腕には重火器風の鉄塊がぶら下がっており、掌も無骨な鉄拳である。 「絶対そうだわ……そんな眼でアタシを見て、貴女も憎いのよッ!!」 「憎い、かどうかは分からぬ。そなたは、コレと関係があるのか……」 「そんな事どうでもいいでしょ!?どうせ全部分かってるクセにッ!」 彼女はストイックかつ無骨な姿とは裏腹に、ヒステリックな声で叫ぶ。 背にセットされている二本の曲剣には深紅の染みが幾つかこびりつき、 その腰には鉄で出来たスカートと……無骨な拳銃が二挺下がっていた。 更に肩胛骨の辺りには、巨大な二枚のバインダーと三角形のユニットが セットされていた。先程は、これを利用して飛んでいたのだろう。だが そんな武装と胸元の装甲板を揺らして、彼女は尚も狂った様に吼えた。 「そうよ!“ドクトル”や“マヨール”を殺して“妹”達も壊して!」 「……マイスター、この娘ひょっとしたら……アレかもしれないもん」 「アレって何!?人間の味方気取ってるんじゃないわよ、ガラクタ!」 クララが私に耳打ちするのを、彼女は聞き逃さない。しかし、ここまで 過敏になっているというのはやはり“AIPTD”か何か……ともかく 超AIに対して強いプレッシャーが掛かっているのは、疑い様がない。 単に凶暴化しているにしては、被害妄想が強い気がするのだ。無理矢理 そういう調整をされたのかもしれんが、ともあれ彼女は何かおかしい。 単純に殺人の命令を受けている、という訳でもなさそうだが……むぅ。 「……ガラクタなんかじゃないです!あた……この娘達は違います!」 似た様に一度人間を拒絶した茜……アルマが、咄嗟に叫んだ。慌てて、 『あたし達』という言葉は呑み込んだが、彼女は既にお見通しだった。 小刻みに震える手で茜を指差し、彼女はキッパリと言い切ってみせる。 「何言ってるのよ!声や動きで分かる、アンタもその玩具達と同じよ!」 「うっ……そうです、あたしも武装神姫。貴女だって、そうでしょう?」 「違うわよッ!!あたしは……あたしは“ロキ”!あたしは……ッ!!」 アルマの正体を看破した所まではいい。だが彼女は、その後の言葉が全く 続かない。ロキという名を告げた所で、激しく肩を振るわせ始めたのだ。 ……数秒の沈黙を破って、呪いを吐き出す様にロキは己の正体を告げた。 「“戦略級殲滅型MMS”……“ハザード・プリンセス”の零号機よ!」 「ハザード……プリンセス?“ラグナロク”が創った、MMSの名か?」 「ッ!?やっぱりアンタ、知ってるのね!絶対、壊しに来たのよッ!」 私の呟きに、ロキが再び烈火の如く激昂する……歩姉さんを殺したMMS。 そんな“予感”に囚われる意識を振り払い、私は彼女を見据えた。躯は、 武装神姫と何ら代わらないサイズである。これをテロや暗殺に用いようと 企んだ“ラグナロク”の邪心に、吐き気さえ催す……が、ここは我慢だ。 「落ちついてくれ、私達は壊しに来た訳ではないのだぞ……ただな?」 「嘘だッ!!そう言って人間は、アタシ達を騙して壊したのよ!!?」 「えと……さっきから、壊した殺したって……話が見えてきませんの」 「トボけないでガラクタッ!人間は、飽きたら玩具を棄てるのよ!?」 錯乱しているのか何なのか……至極真っ当なコミュニケーションさえも 成り立たないまでに、ロキは怒り狂っていた。いや、むしろこれは…… そう、“憎悪”。世の全てを恨み、嫉み……憎み、蔑む。そんな姿だ。 神姫にも“心”がある以上、そういう感情に支配される可能性はある。 だが、いざ目の前にすると……これ程まで憎悪の力は強いのかと思う。 「ロキ、と言ったか……そなたを使役する“ラグナロク”の……」 「いないわよそんな奴ッ!?もう誰も、アタシの側にはいない!」 そんな彼女を目の前にして、私達の心によぎったのは……哀しみだった。 歩姉さんの仇かもしれないMMSなのに、何故そこまで世界を憎むのか…… そうまでに歪み腐れ傷ついた“心”の存在が、とても哀しく思えたのだ。 「……私は本当に、お前の身に起きた出来事を知らぬ。話してくれぬか」 「ふん!何処まで嘘ばかり言えば気が済むの!?良いわ、言ってあげる」 「お願い、なんだよ……それを知れば、ボクらにも何かできる筈だもん」 「無理ね。むしろアンタ達も、“人間”から今すぐ逃げたくなるわよ!」 ──────何が、あったのかな……道化の神に……? 第四節:憎悪 “道化の神”の名を冠するMMSは、シェードの深奥に隠された瞳で私達を 睨み付ける。表情こそ見えぬが、明らかに殺気の混じった視線を感じる。 そして、一拍置いてから彼女は語り始めたのだ……己の呪わしき宿業を。 「アタシは、“ラグナロク”の博士……“ドクトル”に作られたのよ」 「……そう言えば、戦略級とか零号機と言っていたな。試作型なのか」 「そうよ。アタシは後に産まれた十二人の“妹”達……その姉だった」 私は話を聞きながら、納得する。彼女の装備は、全て人間社会に対する “兵器”なのだと……そう、彼女は『人間を殺す為の兵器』なのだと。 しかし、必ずしもそれだけではなかったという痕跡も……見えてくる。 「人間の顔なんてないカメラアイの妹達もアタシも、皆大事にしたわ」 「大事にって……商品のサンプルだからって意味、じゃないのかな?」 「違うわ!それもあったかもしれないけど、色々遊んでくれたのよ!」 ロキは語る。自分達の閉じた世界で、なお創ってくれた人間……そう、 “ラグナロク”の面々は人間味溢れる態度で、彼女らを愛したのだと。 クララの抉る様な質問を、血を吐く勢いで否定したロキの態度が証拠。 「イタリアで、電車を“プラズマ・ボマー”で壊した後だってそうよ」 「ッ!?……い、イタリア……?その時に、創造主はなんと言った?」 「何も言わないわ!でも、撫でてくれたのよ……笑ってくれたのよ!」 神姫は須く『マスターの為にある事』を第一義として生きる。ならば、 神姫の試作品を元として産み出されただろうこの娘も、神姫達と同じく 『自分を使ってくれる人の為に働く』事を、その喜びとしていたのだ。 目の前のロキが歩姉さんを殺した……その事実と、神姫としての因子を 受け継いでいた哀れなる姫。二つの事象が、私の中で渦を巻いていく。 「最初は“ベルンハルト”も“マヨール”も、冷たかったけど……でも」 「でも、その内に笑って貴女を抱きしめたりしてくれた……んですか?」 「そうよッ!他の人間なんか知らない、アタシ達の大事な人だったわ!」 「例えどれだけの人間を殺しても、その人達が笑ってくれるなら……?」 「構わないわ!だから……だから、アタシは望まれるままに戦ったの!」 彼女の腰に下がる血塗れのマチェットが、その歴史を証明する物だろう。 神姫のサイズならば、爆破工作だけと言わずに様々な裏の仕事が出来る。 ……残酷な様だが、理論上は非常に効率的だった。唯一の誤算は、作った “ラグナロク”の連中自身に、制御し切れない感情が産まれた事だろう。 そしてその“想い”は、知らず知らずにロキを“道化”へと換えたのだ。 「でも……でも、そんな事をした為に“ラグナロク”は壊滅しましたの」 「そうよ!アタシは皆に笑ってほしかっただけなのに、他の人間がッ!」 ただ愛するが故に屍山血河の道を突き進んだロキは、しかしその行いが 遠因となって、愛する人達を永遠に喪ってしまったのだ。自分がいくら 悪を為していたと認識しても、“想い”はそう簡単には精算出来ぬ物。 「あいつらは、あいつらは……何も言わずに皆を撃ち殺したのよッ!」 「……そう言えば“妹”さんは、その時どうしていたんですの……?」 「八人が人間達に壊されて……四人が、何処かに連れて行かれたわッ」 ロキの声が震える。彼女の脳裏に浮かぶのは、楽しかった思い出か…… それとも“悪”として滅ぼされた、愛する人々と“妹”達の断末魔か? “神々の黄昏”という名に相応しい、苦い余韻を伴って組織は滅びた。 だが唯一この世に遺されただろう彼女の“心”は、果たしてどうなる? 「“ベルンハルト”は、自分を盾にしてアタシを逃がしてくれたのよ」 「……そして、この東京まで逃げてきたのかな?たった一人で……?」 「一人じゃないわ!運び屋が持ってきたの!でも、でもアイツら!!」 そして……そんなロキの傷心に毒を塗り込んだだろう“運び屋”。やはり その者は二流……神姫を扱う者としては、三流以下のゲスだった様だな。 ……そう。私はこの時、ロキが最早『神姫と同じ娘』に見えていたのだ。 私の心を揺さぶる様に……ロキが、己に降りかかった最期の災厄を語る。 『畜生、ベルンハルトの奴!こんな玩具を俺に寄越しやがって……ッ』 『な、何するのよ!?やめて、こんな暗い所に押し込めないでよ!!』 『煩ぇ!お前の運び先なんて教えられてねぇんだ!人形が喋るなッ!』 『嫌!なんて突然、皆怖い顔してるのよ!?“マヨール”だって……』 『黙りやがれ!お前がはしゃいだ所為で足が着いたんだろうがッ!!』 『ぁ──────ッ』 あくまでもその運び屋は“荷物”としてロキを認識したのだ。恐らくは、 それまでロキが触れる事の無かった、組織の末端だったのだろう。信じる “ラグナロク”の構成員に、邪魔な玩具として扱われるという仕打ち…… 彼女に産まれた“人への憎悪”を増幅したのは、間違いなく彼らだろう。 そして恨みを払拭する事もなく……彼らはロキのシステムを停止させる。 彼女はスリープ状態でも記憶・記録を整理し続け……憎悪を、純化した。 「……気が付いたら、箱の中。それを破壊して出てきたら、ここよ!」 「自分でも知らない内に、秋葉原まで持ち込まれて……なの、かな?」 「そう、アタシはここで“棄てられた”!人間なんて、そんな物よ!」 ──────人間の為に、生きて……人間に、殺されたんだね……。 第五節:疑念 彼女は……ロキは、泣き叫んでいた。無論だが、涙を流す機能は備わって いないだろう。仮に備わっていたとしても、このヘルメットでは見えぬ。 下手をしたら、シェードの下にあるのは単なるカメラかもしれない。だが 私は……私達“四姉妹”は、強く感じていたのだ。哀しき“神の涙”を。 「アタシは、だから……自分が壊れるまで、復讐する事にしたのよ!」 「復讐?……人に、ううん。人間の存在する文明全てに……ですの?」 「そうよッ!もう、人間なんて信じない!だから、全部壊すのよ!!」 モノトーンの躯を揺らし、彼女は強い怨嗟の声を上げた。己を裏切った この世全ての悪となり、何もかも打ち砕くと吼えたのだ。しかし……。 「どうして、ですか?もう一度、誰かを信じてみる気になりません?」 「なるわけないでしょ!そう言う人を皆殺しておいて、何を言うの!」 「しかしだ……お前が愛して信じていたのも、また同じ人間なのだぞ」 もし彼女の語った事が全て真実ならば、私は彼女を止めねばならない。 無論、それは彼女を壊して『正義の為に戦う』等という、偽善に満ちた お題目を吐く為ではなく……私のエゴとして、彼女に止まってほしい。 「違うわ!同じ人でも、あの人達と他は違う!違うのよッ!そう……」 「ッ!?マイスター、下がって!拳銃を抜いた……撃たれるんだよ!」 「アンタも違うッ!冷たくてゴミみたいで、居る価値もない人間ッ!」 しかし憎悪に振り回されていたロキは、初めて遭った私の言葉を聞かぬ。 腰に下げていた両手の拳銃を抜き、私達にその照準を合わせたのだ……! いや、違う!この銃口の向きは……ロッテとクララか!?私は、焦った。 「そうね、このガラクタを壊せばハッキリするでしょ!そうでしょ!?」 「だ、ダメです!この娘達を撃つなら、まずあたしから撃って……ッ!」 「嫌よ!まずこのガラクタから壊して、それから殺してあげるわ……!」 『だめッ──────!!!』 ロキの厳つい指が動き、拳銃の引き金を引いた。先程の爆発と同じ様な、 プラズマの波紋が空気中を伝わり、文字通り光の速さで弾が飛んでいく。 ……最早、思考さえも追い付かない刹那の瞬間。私は、無意識に動いた。 「……ぐ、ぅぅ……!?……くぅ、手が……痛い……なッ」 「え……嘘?マイスター、何を……してるん、ですか……」 「……そんな、マイスターの手が……血が、流れてますの」 「ボクらを、庇って……手で、弾丸を受けたの……かな?」 皆が気付いた時、私は二つの弾丸を手に受けていた。咄嗟に両手を伸ばし 茜の肩にいるロッテと、己の肩に座ったクララを庇ったのだ。幸い、指は 全て付いている。激痛で意識が消し飛びそうになるが、深い傷ではない。 だが伝う血は涙の様に零れて、地と私の手を濡らす。そして彼女は……! 「嘘よ……嘘、嘘よ嘘!嘘よッ!?何故、そんなのを庇うのよ!?」 「……彼女らが、私の大切な“妹”だからだ。護るのは、当然の事」 「嘘ッ!人間なんか、アタシ達なんてどうでもいいんでしょ!!?」 「……誰が何時、ロキ……お前をガラクタと言った。全くもう……」 他ならぬ彼女……撃ったロキ自身が狼狽えていた。私だって、何故こんな 無謀な事をしたのか、と問われると……これしか応え様がない。しかし、 これで分かった。彼女は、己を“要らないガラクタ”と思いこんでいる。 となれば、彼女の憎悪を解きほぐす糸口も……見えて来るという物だな。 「……わからないわ。わからないわよ!何故、人間なのに何故ッ!?」 「マイスター、血が出てます!これ、早く止めないと……拙いです!」 「気をしっかり保ってほしいんだよ、マイスター!……今は、退いて」 「マイスターを、やらせはしませんの……ここは、退いてください!」 ロッテもクララも、私の身を思い量って“魔剣”を手に盾となる。茜は、 HVIFを纏っているのも忘れ“アルマ”として、私を抱きかかえる…… 血の流れに意識が遠のきつつも、“妹”達の勇姿はしっかり見えていた。 「なんでなのよ!?人間なんて身勝手で怖くて、庇っても意味無いわ!」 「意味は、ありますの……この人は、わたし達の“愛する人”ですのッ」 「愛する人の為に戦ってきたのは、他ならぬ貴女がやった事なんだよ?」 「だから、あたし達は……マイスターの、晶さんの為に戦うんですッ!」 「……わからない。アタシ、人間が分からない!貴女達も分からない!」 明らかな怯えの色を見せつつも、ロキが背中の翼を広げる。悪魔のそれを 想起させる変形を見せたバインダーを使い、彼女は東京の空へと消えた。 追い掛ければ届くのかもしれないが、今の私に追い縋る事は叶わぬ様だ。 「行っちゃいました……それより、マイスター!?大丈夫ですかッ!?」 「これは……一応掛かり付けの外科医さんが近所にいますの!そこへ!」 「分かったんだよ!マイスター、気をしっかり保って。傷は浅いんだよ」 「すまないな、皆……痛ッ!何、かすり傷だ……大した事は、ない……」 ──────哀れな姫様を、きっと助けてあげるからね……? 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2201.html
戦うことを忘れた武装神姫 その42 ・・・初雪が噂される、12月24日の神姫センターで開かれた、公式のクリスマスイベント戦で、鬼神の如く、次々と勝利を収めるツガルの姿があった。 1戦終えるごとに、ツガルのマスターは装備のメンテナンス・調整を短時間で行い、すぐさま次の試合に送り出す。 フィールドに戻ったツガルは、再びツガルらしからぬ荒々しい、しかし華麗なバトルを展開し、わずかな時間でまた1勝を上げていた。 数年前のある日。 レンガ造りを模した建物にテナントで入る神姫ショップのショーウインドウに、武装神姫のディスプレイとして、ツガルが仮起動状態でそっと置かれた。 どうやら昨年は、アーンヴァルが同じ場所に置かれ、仲間の道しるべとなるべくこの任務をこなしていたらしい・・・。AIは起動しているツガルは、準備する店員の会話を聴きながら、初めて見る外の世界にワクワクを覚えていた。 ・・・夏から秋へと移ろいゆく季節を眺め、足を止めて自分を見てくれる人に、動くことは出来ないけれどココロでアピールをする。ちょっと退屈だけども毎日がちょっとずつ違う、そんな日々を送っていたツガルは、いつしか店の前を行く人たちの表情に興味を持つようになった。 どんなことを考えているんだろう、どんな日常を送っているんだろう・・・。 そんなことを考えるだけでも楽しくなってきた、冬の日。 ツガルは、店の前の通り向こうの街灯の下に立つひとりの男に目が止まった。 髪をきれいに整え、手にはプレゼントと思しききれいな包みを手にして、覚えている限りではもう1時間も立ち続けている・・・。 いったい、誰を待っているのだろう。時々手に息をかけて温めては腕時計に目を移したりしながらも、疲れたそぶりも見せることなくただ立っていた。 そうか、大切な人を待っているのかもしれない・・・。ツガルは、男の様子をそっと見つめていた。 しかし、周囲の店の明かりも徐々に消え始め、人通りが少なくなってきても、まだ同じ場所で寒さをこらえる男。あれからさらに2時間は経過している・・・。 北風にこらえきれなくなった男が、そばの自販機に目を向けた、その瞬間。 男の動きが、止まった。 視線の先には、楽しそうに会話をしながら歩みゆくカップル。手には、互いにきれいな袋を持っている・・・。 カップルがツガルの視界から消えたとき、待っていた男は手にした袋を落とし・・・いや、がくりと膝を落としていた。 ツガルは、男の身に何が起きたか、考えることもなくすぐに理解できた。歩みゆく人の視線を気にすることもなく、膝を地に付けたまま小さく震える男の背中。 ツガルのいる店の灯りが落とされるころ、男はようやく腰を上げ、力ない足取りでツガルを横目で眺めながら、きらめく街の中へと消えていった。 翌日。 ショーウインドゥに居たツガルは、突如指名を受けてオーナーを得ることになった。 ツガルのオーナーこそ、昨晩の姿からは想像も出来ないラフな姿で店に現れた、あの男・・・。 一部始終をツガルが見ていたことに気づいていたのか、はたまた単なる偶然か。 だが、ツガルはあえて聞くことはしなかった。いや、昨晩の姿を見てしまっていただけに、聞くことができなかった・・・。 その日から、ツガルは新たな名をもらい、男の神姫としての日常を送ることになった。 バトルあり、おでかけあり、時に叱られたり、時に涙したり。ごくごく当たり前の、とても楽しい毎日を送り、あっという間に1年が経過しようとしていた。 やがて巡ってきた12月。 ツガルは、男の様子が少しおかしいことに気づいた。 日が進むにつれて徐々に顔色が悪くなる男。 もちろん仕事が忙しくなっていることもあるのかもしれない。しかし、これは・・・。去年の出来事を、ありありと思い出したツガル。おそらく、男もまた思い出しているに違いない・・・。そこでツガルは、男にひとつの提案をした。 「クリスマスを・・・ぶっ飛ばしてみませんか?」 その日から、時間が許す限り、ツガルと男は地元の神姫センターに通い始めた。 クリスマスに開かれる、公式イベント戦を目標に、ふたりは公式・非公式問わず、出来る限りのバトル経験を積み、結果この年のクリスマスのイベント戦では、経験が浅いにもかかわらず見事3位入賞を果たした。 副賞をもらう時の男の笑顔に、ツガルは何か、サンタ型として贈る事が出来た気がした。同時に、男から、笑顔というプレゼントをもらった気も・・・。 そして。 男の神姫となってから3年。 昨年のクリスマスイベント戦では見事に優勝し、今年は防衛戦でもある。 まだまだ予選ではあるが、決して手を抜くことなくまたひとつ勝利を収めたツガル。 元々男が、小さなロボットや工業・産業機械の設計に携わる仕事をしていることもあり、非の打ち所がない完全なメンテナンス・調整が施さたツガルは、常に最高のパフォーマンスを発揮し、またツガルも男の気持ちに応えるべく、鋭く、美しく、フィールドを舞い続ける。 ギャラリーからもため息が漏れる見事な戦いぶり、今年の優勝は・・・という声すらも聞こえる中、ふたりは今年もクリスマスをぶっ飛ばすべく・・・またひとつ、勝利ポイントを上げていた。 ・・・あの日のような姿は、二度と見たくない。 私が見たいのは、笑顔。 あの人の笑顔がいつでも見たいから、私は舞う。 そう。 いつの日か、出会った日の事を笑顔で語り合える日が来るまで-。 勝つための戦うことは忘れ、笑顔を忘れないために戦う神姫がいる。 彼女は、笑顔を射止める紅き弾丸。 ~ツガルのマーヤ~ <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1889.html
フィールドに響く斬撃と悲鳴。 恐怖に歪んだ相手、揺れるその目は体同様に震えてこちらを見上げる。拘束服と大きなナイフの生えたブーツ、ずり落ちた太いベルト状の眼帯とその下の半壊した左半分の顔を。 「ぁ・・ぁぁ・・」 悲鳴すら出なくなった喉を爪先の刃で掻き切れば相手はボロボロと崩れて情報の破片と化した。 『Win 観夜』 フィールドを出ると周りの連中がこちらに視線を向けた。 軽蔑、侮蔑、蔑み、批判の目。腹立たしい限りの自分勝手か、何とも似非な一般常識と正義を掲げる事を笑う。 曰く「虐待している」、曰く「非常識」、曰く「鬼畜な」。 己(オレ)がこの姿をしているのは己の趣味でしかないのに。真相を知らずに何を考えているのやら。世界全てが自身に味方しているとでも思っているのだろうか?傲慢なことだ。 「お疲れ」 「ん」 己を手に近くのテーブルに移る。口のバーギャグと腕の拘束を外すマスター、自由になった手でナイフ付のブーツを取る。 「今日はちょいと荒かったかな」 「んー、新しい連撃を試したから。まだまだ練習しないとダメか」 「やな。ま、気長にいこーや」 「うん」 普通のブーツに替える。次に頭を両側から挟み・・・ 「待った。それ鞄の中でな」 「おっと」 ヤバイ、ヤバイ。 マスターが背負っていたバクパックの中に入って続きを。今首の上に乗っている頭を取って首の後ろ、リアユットの上にある逆さまの頭を掴んで曲げて首の上に固定する。外した頭は指令を送ってスリープさせておく。ベルトの背面に装備していた犬の頭骨をしまって武装解除完了。最後に顔の左半分を覆う眼帯をしてバクパックから出る。 「終った」 「じゃ、行くで。って着替えんの?」 「んー、今日はこのまま」 「面倒なだけやろ?」 「正解」 ニヤリと互いに笑う。 観夜を上着のポケットに入れてバトルスペースを出る。 入り口の近くで数人の婦女子共が何やらこちらを伺っている。どうせ言う事は判っているがこう毎回では鬱陶しくもなる。 「ちょっと、自分の神姫になんて・・・」 「こいつの趣味に文句言うな。お前らが勝手に何考えようと知らんがお門違いもええとこや」 出鼻を挫いてやれば敢無く沈黙。 唖然としている間に入り口を潜りセンターを後にした。 しかしここの連中は何で他人に干渉したがるのだろうか。面倒な事に頭突っ込んでも仕方なかろうに。 「関係ねーか」 「だね」 それこそ俺の知ったこっちゃないわな。 秋葉原の駅から繁華街を抜け裏路地へと。 とある雑居ビルの1階に俺の家がある。一応このビルの持ち主だしな。 自宅に戻り地下へと降りる。そこは工房になっていて神姫のパーツからバイクの装飾にアクセサリー、果は家具まで造れる程の機材が揃えてある。この部屋で日がな一日趣味に勤しんでいるわけだ。 仕事してないのかって? 以前は普通に働いていたが今は無職。海外旅行で当てた宝くじで一生遊んで暮らせる大金を手にしたんだ。おかげでこのビルを買い取ってからは遊んで暮らしている。古風な言い方をするなら高等遊民ってやつだな。自分で言うのもなんだがワリとダメ人間している。天涯孤独だしな。 「孤独ってこたーねーか」 同居人として神姫がいるし。 凶悪なビジュアルで名前は観夜(みや)。格闘戦に優れたハウリンタイプだ。彼女には俺お手製の武装を施している。以前働いていた会社で覚えた杵柄ってやつだな。因みにビジュアルは彼女自身が決めている。どうせ使うなら本人の趣味に合っている方がいいだろうし。俺の楽しみに付き合わせているんだ、それくらいはしてやるさ。本人は楽しんでいるが如何せん周りの評判は悪いけど・・・ 「今日は何するの?」 「連撃の練習と新装備の試験」 PCモニター上に現れる彼女、装備はいつもの物と新しい物。 『先ずは機能を使わんと拳闘のみな』 『判った』 「思ったより使えそうやな」 先程の様子を検証する。今までより戦術の幅が出てはいるがその分単調な節がある。ま、これは以降の訓練次第でどうとでもなるレベルだし及第点だろう。問題はその機能の方なんだが・・・ 「零距離で使うかあれを・・・」 「ん~、射撃殆ど使ってなかったからなぁ」 「確かにな。で、感触はどないで?」 「いい感じ。キレもそこそこだし。ただ機能の方はあれか?威力を上げる一撃で使うだけになりそう」 「なるなぁ。牽制に考えてたけどそういう使い方もあるか」 意図していた使い方とはかけ離れているが彼女の底上げになるなら良い。うむ結果オーライって事で。 「んじゃ次いってみよか」 「はいな」 夜半まで新装備の運用と具合を確かめ空腹を知らせる腹の音に終了した。 バッテリーを使い切った彼女をクレイドルに寝かせ自室のPCを立ち上げる。幾つかのHPを回り最後に神姫センターへと。 「来月頭か・・・・」 告知覧で近々行われるイベントに目を留める。規模としてもそこそこになりそうなそれ、久しぶりに参加してみるかな。偶には派手な舞台で暴れさせてやるもの良いだろう。普段は草バトルしかしてないし神姫関係の掲示板でも結構名前出てたしな。尤も殆どが悪名なのが俺達らしいとこだ。その内二つ名でも付くだろう。否寧ろこのイベントで付くようにしてやるのも面白いか。 ニヤリと笑い傍らの相棒を見る。容姿は幼く見えるハウリンタイプの顔、ノーマル状態よりも大きな胸部パーツで重心を高く、腕脚も少し長い彼女は童顔のでいて中々のプロポーションだ。そんなのが暴悪に暴れる様は鮮明に映る筈。それにセンターでのイベントでは録画があるしその凶暴さは知れ渡るだろう。 どうせ二つ名が付くなら派手な方が面白い。凶暴に暴悪な修羅が如く、最高の悪名を目指すとしようじゃないか! 「決定やな」 メールフォームに参加登録し来る日の為に訓練メニューを組むとしよう。 2週間の訓練を経ての草バトルは今まで以上の快勝だ。 一部を除いて新装備を試してみたが予想を上回る戦果をあげ10連勝を達成した。 「センサー系の強化は流石に効果的やな」 スモークディスチャージャーで視界を奪い同時に散布された帯電物質でのセンサー麻痺、そこを強化聴覚で狙い打っている。相手が聴覚センサーを装備していなければ一方的だった。射撃系にしてもその音からある程度相手の動きを察知出来る彼女の前では有効ではなかった。装備の完熟訓練を徹底した彼女に死角は少ない。対熱センサーは厄介だがこれには手投げ弾(焼夷弾)を使う事で対策できた。問題は音響兵器だけだがこれはセンサーにリミッターを設けて対策した。 「ステルスでも音はするから逃がしはしないよ。その分うるさくて銃は使えなくなったけど」 一点だけ残ったこの問題、元より射撃戦を想定していない彼女なので割り切って捨てた。それにこのセンサーを使うにはどうしてもAIに負担が掛かる。対策としてディスチャージャー使用時以外はその感知レベルを落として使うようにしているが・・・完璧には程遠い。んー、技術屋としてはまだまだ開発段階としか言えないな。 「でもまぁ及第点か」 「そそ。世の中に完璧なんてない」 判っていてもそれに挑戦するのが技術屋の性ってやつなのだ。 更に5日後の昼、草バトルを終え今日の戦果を振り返る。 今日は聴覚センサーを使わずの従来通りの格闘戦を徹底した。 結果は10戦8勝2分け。ディスチャージャー使用時よりは劣るもののかなりいい線をいっている。 「強化リアユニットも慣れたもんやな」 「まね。あれだけ訓練したんだもんそれこそ死ぬ気でね」 以前使っていたリアブースターJRv21を元に見た目はほぼ変わらずに出力を大幅に増強した。更にスラスターをリアユニット一体型にボールジョイントでの可動式を採用し小型化に成功した。反面スキル用のエネルギー供給が減り使用回数が減少している。 「正に必殺になってきたな」 「だね。己としてはそんなにスキル使わないしどうせ決める時はトドメだから問題ないけど」 連続攻撃を主としている彼女でなければ使い勝手は悪い装備か。開発は継続だなこれも。 「ってバトルの方を考察しない?」 「おぉ、忘れてた」 本題そっちのけになってた。 そして来る当日。 思いの外の多さに驚く。参加人数の大幅オーバーの為に急遽会場を大きな場所に移したとの連絡だったが最早これ程とは・・・観客も相当いるようだ。参加人数も50名は下らないし観客は200は居るな。 「しかし何でまたこんな増えたんやろ?」 「賞品が特殊だからじゃない?」 「そうなん?」 「メールにあったよ。賞金30万と三位までには賞品として新しい神姫を先行配布なんだってさ」 成る程、話題のライトアーマーの連中か。そんな賞品が出るなら敵のレベルも相当だろう。ふむ、様子見する気でいたが初めから気合を入れていかねばならんようであるな。 会場は既に熱気に包まれ今からのバトルを待ち遠しそうな観客で溢れていた。 俺達はネットでの手続きをしていたのでそれ程手が掛からなかったが当日参加組は大変のようだ。 邪魔にならないようにさっさと選手控え室に向かうと・・・おー、おー、センターでよく見掛ける奴等が沢山居る。 『さぁ皆さんいよいよ開催となりました! 待望の新神姫を狙う方も、バトル目的の方も目指すは表彰台! 一位の栄光を掴むのは何方か!』 テンプレな台詞で会場を沸かせるリングアナのマイクパフォーマンス、アリーナに集まった強者の中で俺は、 (んー、前口上なげーなおい) なんて思っていた。 『では早速予選Ⅰブロック第一試合を始めたいと思います!!』 予選が始まると控え室では全員臨戦態勢に。 「珈琲甘っ」 「試合みようよ」 俺達だけ何時も通りだらけている。 室内に設けられた無駄にデカイモニターで試合を観戦する。回りは手に汗握らんばかりに熱く見ているようだが今からヒートアップしてどうするんだ? 最初の試合はルーキーらしい天使とそこそこな侍、試合は胸を借りると言うような展開だった。勿論勝ったのは侍。終了後に倒れた天使に手を貸している様に会場が沸いていた。絵になる状況だが俺としては、 侍「大丈夫かい?」 天「は、はい!」 立ち上がらせる。 侍「今回は勝たせて貰ったが次は判らない。君、中々いい筋をしているよ」 天「あ、ありがとう御座います」 侍「ふふ。又どこかで会おうじゃないか」 天「はい!」 背を向けて去っていく侍。 天(なんて凛々しい・・・嗚呼、お姉様・・) ぽっ ってな展開だったり。 「うん。百合やね」 「まてまて、幾らなんでも突飛だろう」 思わず口に出たらしい。ツッコミを入れる観夜を見れば半開きのジト目で見られた。脳内小劇場の展開を見破るとは流石だと思う。 次の試合は素晴らしくルーキーズな試合だった。双方猫のもう見事なまでのステゴロのタイマン、俺好みなものだ。研爪同士の殴り合いは妙に燃えた。防御も回避もあったもんじゃないその様はガチのシバき合い、子供の喧嘩じみた展開で面白かった。勝った方の猫がヨロヨロでも笑顔なのに対して負けた猫が泣きながらオーナーに駆け寄るその様も萌えた。うむ、猫も中々だと思った。 「己もあんなのしようか?」 「似合わんやん」 拗ねる相方を撫でつつ画面に向う。 Ⅰブロックの試合が終わり次のブロックへ。 Ⅱブロックは何とも格闘戦が主体になっていた。 一試合目は騎士VS種の剣戟、二試合目は花VSセイレーンの槍襖、三試合目は悪魔VS犬の大剣戦、で今行われている四試合目は猫VS寅の殴り合いである。うむ燃える。ナックル系は格闘戦の花形だと思う。 「しかしあれやな寅の方のあの笑顔は中々俺好みや」 「己もあんなのだしな」 何気にアピる相方、愛い奴だ。 で、Ⅲブロック。 ブロック出場者用の部屋に移った俺達、部屋の中にはセンターで見る奴がちらほらと見受けられる。そいつ等は俺達を見るなりヒソヒソと話し出した。何話してるかは知らんがどうせ宜しくない事なのは確かだ。無論無視である。 部屋の隅にあるメーカーから珈琲を注ぎ近くの椅子で相棒に装備を施す。 テーブルの上に鞄を置きその中で装備させる。隠し武装の多いコイツの武装を見せるなんて下手は踏まない。センターに行く時でも装備をしてから鞄に入れて行くしコイツの装備している様を見た事ある奴なんて殆ど居ないだろう。案の定さっきヒソヒソやってた連中が移動してこちらを伺っていたんで満面の笑みで向かえてやれば気まずそうに目を逸らした。阿呆が。 「できた。拘束お願い」 鞄から何時もの拘束服で現れた彼女の両手を服に固定し最後にバーギャグを嵌める。他の連中はその姿に顰め面を、数人は赤面しているが何想像してんだか。ヒソヒソやってた連中はその姿を一瞬睨んでいたようだが何も恨まれる覚えなんて無いししてもいない。全く外面だけで悪役意識を決めて掛かっているもんだ。ダーティーさを好む俺とコイツからすればその眼差しはタダの涼風でしかないし。「好き勝手想像してなお子様」と思うだけだ。自分のやりたいような自分になるだけの話。ルールは侵してないし他人にとやかく言われる筋合いはない。そんなのだからアウトローなんて思われるんだろう。無法者じゃないんだけどねぇ。 肩に乗せた彼女、刃が刺さらないのか?と言うとちゃんと対策してある。刃の当たる部分の裏側にパッドを仕込んであるのだ。昔は良く刺さったものでその度に流血しながらも我慢していたのが懐かしい。ってそんな話はどうでもいいな。 進む試合、俺達の出番は次だ。 入場ゲートのモニターで今の試合を見ているがなんとも派手で良い。もうレーザーの撃ち合いとか派手だねぇ、実体弾の方が好きだが派手さではこれには及ばない。その分渋さはないけど。 決着の付いたフィールドから神姫達が戻り選手が帰っていく。 アリーナに入ると観夜の姿を見た観客からの変な声が響く。 主に聞こえるのはいつものブーイング、聞きなれているだけに逆にリラックスできるってものだ。少数の肯定派にも周りからブーイングされている。そいつら関係ねぇやろ? 「なんだかねぇ」 フィールドの前に座ると相手が見える。ふむヒソヒソやってた連中の一人だな。 「俺が勝ったらその格好止めてやれ!」 リングアナが話すより先にそいつが吼える。俺唖然。馬鹿じゃねぇの? 「他者の趣味に意見しても意味ないぞー」 生暖かい目で返してやる。フィールドインのポッドの前では観夜が眼帯越しにそいつを向く。多分睨み付けているんだろうなぁ。 「もっと自分の神姫大事にしてやれよ!」 はっ!外見だけしか見てない奴の言葉に怒りではなく笑いが込み上げてくる。素晴らしいまでの自意識だ! 『え~、試合初めますよ~』 困っているリングアナが可哀相なんでさっさと観夜をフィールドに入らせた。 少し埃っぽいゴーストタウンにブーツの爪痕を残して己は立つ。 相手の悪魔は手にした大鎌を掲げ黒い翼をはためかせる。 「悪いオーナーに当たったね。ま、ボクが倒してあげるから、そうしたら普通にできるよ」 バーギャグに牙が喰い込む。 (ムカツク!過剰な自意識でマスターを侮辱するな!) 開始の号令と共に己は地を蹴った。 _________ 低空を滑空する彼女の姿はボロボロで黒い翼もズタズタ、飛ぶのもやっとと言ったところだ。 焦る悪魔の顔に胸が透く。さっきの言葉の代償はその身で払って貰う。 「ちっ!」 後ろを走る俺にフルストゥ・クレインを投げてくるが無理な体勢からの投擲なぞ当たるものじゃない、ましてや己は怒っているんだから。 「くそっ!!」 突き当たりの壁を蹴って反転鎌を振り被る。 (愚か!!) 自分から死地に踏み込むようなものだ。首筋を狙うその一撃、上半身を逸らしオーバーヘッドの一本蹴り上げで迎え撃つ! 「きゃぁぁぁぁ!!!!!!!」 懇親の一撃がその鳩尾を直撃し深々と刃が突き刺さる。更にバク転の勢いで体を捻り胸に向かって斬裂く。アーマーの裾から進入した刃は確実にCSC基部を貫いただろう。片足が地面を蹴った時には一撃を加えた脚に抵抗は無くなっていた。 眼帯の中央にある小さなカメラアイに映る視界に情報の屑と化す悪魔の引き攣った顔が見えた。 先ずは一勝。 相手のオーナーはパネルを叩いて吐き捨てる。 「絶対にその神姫を開放してやるからな!」 「さよか」 態とイヤらしい笑みで返してやった。うん俺は悪役に向いていると思う。 予選はなんの問題もなく勝ち進み決勝リーグの切符が入る。 決勝リーグは各ブロックの上位三名ずつ9人と敗者復活の計10で行われる。その対戦カードの抽選はなんと阿弥陀クジだった。クジなのは良いとして何でまたこれになったんだろうか?とても気になるところだ。今回の大会主催者は中々面白い御仁のようだ。 対戦カードが決まると一旦休憩。別にどこかのサングラスのおっさんが言ったわけじゃない。 控え室では持参した昼食を取る奴や大会スタッフから渡されたサンドイッチを貰う奴がひと時の休息を取る。 30分の休憩を終えた会場は熱気を更に上げアリーナを眺める。 決勝に残った選手の紹介が始まりそこでのインタビューって何なんだろうか?実に面倒だ。序に言うなら妙なセンスの二つ名を勝手に付けて神姫を紹介するのは如何なものか?一番左端の奴から始まり俺は最後、一番のは「白い龍」と紹介された侍、次は「灼熱の騎士」で騎士、「雄雄しい爪」の寅、「白金の薔薇」で花、「粉砕砲撃」で砲台、「太陽をも貫く槍使い」でセイレーン、「銃撃の奇術師」で兎、「スキルメーカー」で忍者、「風読む弓矢」で人魚。そして観夜はと言うと 「THE拘束服」 (センスねーなーコイツ!!) 俺と観夜が完全にシンクロしたと思った。否、せざるおえない! こんなんが二つ名になったら大いに落ち込むだろう。 そんな紹介の中でもブーイングがあった。その声を聞くと段々笑えてくるもんで必死に表情を固定した。必死に。 そして始まる決勝リーグ、一回戦は5試合、二回戦は2試合、準決勝で決勝になる。内2人だけ試合数が少ないがそこはクジの運である。 第一試合の侍VS寅がスクリーンに表示され俺達は控え室に戻る。 部屋では誰もがモニターを前に真剣な表情を見せる中俺は甘い珈琲片手に隅っこの喫煙席に付く。 さてここから難しい所、特に一回戦では相手の出方を読みきれないからな。と普通ならそうなるが観夜の場合それが無い。と言うよりも装備が一種類しかない。新装備も基本の物の単純発展型、つまり高度や威力を上げただけに過ぎないのだ。一部には追加でスキルを搭載したくらいで完全に別物なのは追加センサーとして造った犬耳と見た目と重さを変えたドックテイル、出力を上げたリアユニットの3つだけ。故に悩む必要がないのだ。現在の装備以外は素人同然だが完熟訓練の行き届いた現装備は達人級、更にはその独自性の強さに相手は動きを読み難いだろう。キックエッジアーツなんて使う奴はいないからなぁ。例えこの先対策を練られたとしてもそこは新しい対抗策を考えればいい。それに現時点では考え付く限りの対抗策は作り上げているしその策は既に訓練済みだしな。 そして俺達の試合が始まる。 波が打ち寄せる砂浜が今回のフィールド。 忍者は軽くステップを踏み忍者刀を構える。 ________ トリッキーな動きでこちらを翻弄する相手は実にやり難い。 (ちっ、面倒な!) マスターの合図を待って格闘を続ける。相手の攻撃は一撃一撃は然程強くはない。でもその手数が多いのだ。更には連撃の途中で急に後退したりと掴み難い。既に己は至る所を斬られている。 『仕掛けるぞ!』 マスターの声にタイミングを見計らう。相手はトリッキーな動きだけど攻撃の際若干速度が落ちる。そこを狙う。 (今!) 己の下段蹴りを避けての斬撃、それを前にディスチャージャーを展開する。 「なにっ!?」 声を上げて後退する忍者。その「音」を聞いて腰の両サイド、両肩に付いていた犬の頭蓋骨を模したプチマスィーンズを飛ばす。 「見える!」 タイミングをズラして飛ばしたマスィーンズより先に横蹴りで牽制、態とそこに反撃させる。 (かかった) 右脚の痛みを耐えている間にマスィーンズが飛び出す! 「なっ!?」 その顎が限界まで開き忍者の脚に喰らい付く。同時に右脚を更に突き出し左脚を跳ね上げる。更にリアのスラスターを全て頭の方に向け全力で噴かす! ドカッとした手応えが伝わる。 徐々に流れて晴れていく煙幕の向こうで喉を斬り裂かれた忍者が横たわっていた。 一回戦を勝つと観客からのブーイングが又上がる。やれやれ毎回これやるのかねぇ、元気なこった。 「お疲れ」 「ん」 コクリと頷く彼女を肩に席を立つとゲートで待っていた勝者連中がアリーナに集まる。 また始まったマイクパフォーマンスを経て二回戦シード枠のクジ引きが行われる。因みに紐クジだった。やるな大会本部。 見事引き当てた俺は控え室でまーた甘い珈琲を飲む。 「飲み過ぎ」 「何言うか。ガソリン代わりなんや」 モニターで観戦しながらバトルでの指示を考える。 今の所使ったのは何時もの通りの戦法とディスチャージャー戦術だけ。新装備の訓練のお陰で全体的な戦力アップに成功しているし残りの二人、騎士と侍は共に格闘型、観夜の格闘能力には自信があるしディスチャージャーは無しで行く。これが決勝での基本戦術として次に装備の限定解除。今回は早い段階で手の拘束を外すとしよう。そうすれば相手が射撃型であったとしてもディスチャージャー無しで対向できる。更には訓練を重ねた連撃が使える。どうせなら派手に暴れないとな。それに普段は使わない必殺を使うにはどうしても手を使う必要もある 二回戦1試合目は騎士の勝利だった。 次いで2試合目、あっさりとした結果で侍が勝利する。 「要注意やな」 「うん」 あの侍はかなり強い。実力だけでなくオーナーの指示が的確なんだろう。 二回戦が終わり準決勝のシード枠がコイントスで行われる。シードは侍だ。 観夜を乗せてアリーナに向かう。 相手はレインディアシリーズで身を固めた騎士、俺を睨み付ける相手オーナーに不適な笑顔で反してやる。多分何時ぞや対戦した奴なのだろう。 乾いた風の荒野で騎士と向かい合う。 もし双方が拳銃を装備していれば絵になったかも、生憎己は銃を使えないので勘弁。 バックラータイプの小さな盾を左手にコルヌを構える。対して右脚を浮かせ爪先を向ければ開始の号令が掛かる! 先に動いたのは相手。剣での斬撃ではなくバックラーでの打撃、ステップと上半身のバネを生かしたスウェーでやり過ごし縫うような刺突を引き付ける。意識が攻撃に集中しているだろう今に膝を曲げ背中が地面付くくらい体を反らし蹴り上げる。 「くっ!」 バックラーに大きく傷が入る。 威力を殺そうとスップしたその後を伸び上がりからの踵落としで牽制、上半身が沈んだ所を狙う刃を音から斬撃と判断し左脚を軸に体を倒し下段からの回しでの蹴り上げで迎え撃つ。これは回避されたがカメラアイに映るその顔は焦りが見え始めた。そりゃそうか、今までのバトルでは全て己が攻めていた。でも今は後の先じみた切り替えしばかり。ふふん、格闘戦においては死角など少ないのだよ己は! 距離を取ろうとした相手に組み付き逃がさない。軽い前蹴りがバックラーに当たればリアを噴かす。浮いた体を蹴り付けた足を軸に回転膝を曲げて首を狙うもコルヌで弾かれる。その反動のまま弾かれた脚で着地、もう一方で四股を踏む様な形で蹴り落とす。 (思ったよりも機動が良いな) 避けられるのが判ると落とし切るまでにリアを、不恰好な膝蹴りを見舞う。 「くぅぅぅぅっ!!」 予想外だったのか直撃。腰、人間で言う腎臓部分を打ち据えそのまま膝の力で蹴り上げる。爪の様な三枚の刃がそのリストアーマーに突き刺さる。貫通まではいかなかったが焦らせるには十分だろう。そのままのしせいでリア噴射、体を捻って後ろ蹴りで伸びた方の肩を脇の下から強撃する。 「くそっ!」 有効打に右腕は素早い動きが出来なくなっている。でもまだ相手は諦めていないらしい。こういった手合いは何か隠していると思え。マスターの言葉を思い出し対向できる様に距離を取る。 「せっ!!」 唐突な突撃、でも相手は己が対向できる状態なのは気付いてないようだ。眼帯で両目を覆っているから表情が読めないのだろう。この格好はインパクトだけじゃなくちゃんとバトルでも役立つのだ。 投げ付けるコルヌを「横」に避ける・・・ワケないじゃん!w 避けると踏んでその方向に伸ばされたバックラーから細身の刃、レイピアの刃を使ったパイルバンカーが空を切った。 「!そんな・・・」 真下に避けていた体、上半身を反らして蹴り上げ、胸腺を直撃した右脚を相手に押し付けてリアを使ってその体より上にまで登る。頂点に達するまでに左脚で蹴り付けそのまま振り上げる。 「!」 見開かれる目と驚きの表情を見据えたまま踵の刃を頭に振り落とした。 準決勝は己の技術勝ちで終わった。 ブーイングの中観夜を肩に乗せたところで相手のオーナーが喚きだした。 「なんでそんな奴の為に戦うんだ!正気に戻れ!君はそんな姿にならなくてもいいんだ!」 おー、おー、ご高説なこって。 そいつの言葉にブーイングを上げていた連中が賛同するもリングアナの進行で試合は終わり相手は警備員に退場させられた。 観夜は拘束された腕を震わせていた。 さていよいよ決勝戦。盛大な歓声を受ける侍と見事なまでのブーイングの観夜。 最後の相手と向かい合う。 甲冑にターボファンウィングと手に為虎添翼、ウィングの中央には気炎万丈が見える。 拘束服の相棒は何時もの装備。ディスチャージャーユニットは外した。 相手オーナーの少女は俺を静に見据える。俺も然り。 『それでは決勝戦始めます!!!』 リングアナの言葉に開始体勢に。向かい合い目が合った瞬間互いに笑う。彼女は実に楽しそうに、俺はニヤリと。 最後のフィールドはギリシャを思わせる神殿。 相手は刀を抜き身に歩いてくる。 「君は強い。でも私は負ける気はない」 当然の事を言う。でもそれが様になっているせいか彼女が口にするに相応しいと思えた。 (良いね。実に似合う) ゆっくりと上段に構える彼女、己いつも通りの構えで対峙する。 『それでは決勝戦開始!!!』 号に二人共に跳ぶ! 交差する影と閃く刃。火花を散らして打ち合わされる。 (強い) 率直な感想だ。コイツは今日戦った中でレベルがダンチ、攻守共高レベルで機動も良いし技術も高い。だが付け入る隙なんざ必ず有るもんだ。 「はっ!」 (ふっ!) 『攻法を弐式に!』 マスターの指示に腕の拘束をパージ、蹴りでの牽制をかけつつ手は尻尾の上でクロスする鞘に突っ込めば歪なフィストブレードが装着される。その切っ先近くに着いた鍵爪状の刃を相手に振り被る。 「っ!」 息を飲む侍、その刀を鍵爪と刃で絡めて押さえ込み右の刃を凪ぐ! 「ちぃ!!」 上半身をスウェーするも甲冑の一部を削る。この体制なら攻撃はできまいと左脚を振るう! ガキッ!!! 痺れる様な痛みと脛に感じる硬い感触、左側から背面を通して突き出した鞘だ。 体勢的に相手が有利になると押さえ込んでいた刃を抜かれ距離が開く。 「流石に簡単にはいかないか」 (お互い様だ) 呟きにギャグの向こうで答える。 互いに動かず出方を伺う。下手に動けないと言った方が正しいか。 短期決着を得意とするのは同じらしく相手の目は急所を見据えている。にも拘らずこちらの攻撃に反応できるのはその技術量の差か。 「だが勝たせて貰う!!」 言葉と地面を突き下す。相手の意図が読めない!? 瞬間に空へと飛んだ侍はターボファンを唸らせ停止、気炎万丈を構える。 (馬鹿な!あんなの当たりはしないのに!?) 風切り音を轟かせ撃ち出される弾丸をステップで避ける。そう避けれる・・・ ゾクッ・・・ 妙な感覚がし反射的に上半身を捻る! 眼帯のカメラアイに映ったのは小柄の切っ先だった。直撃は免れるも眼帯を掠めベルトが裂ける。 ずり落ちる眼帯を引き千切って投げ捨て射程を離れる。離せない! (よもや射撃から投擲とは・・な) 気付かねば額を貫かれていた事だろう。地上を不規則に蛇行しながら射撃をさせない。否しないのか。しかし気炎万丈はその威力は高いものの連射性は無い筈なのに既に体勢は整っている。改造品と考えて間違いないだろう。 拙い。実に拙い。 格闘は互角か相手の方が僅かに上射撃の腕も高いと来たか。更には飛行速度も申し分なし。 『全使用を許可。骨顎発射から仕掛けるぞ!』 指示に立ち止まらず4機のマスィーンズを切り離す。内2機をその翼目掛け飛ばす! 「甘い!」 侍は迷わずそれに向かって飛び気炎万丈を発射。一つを撃ち落し銃架でもう一つを殴り飛ばした。 (やる!) 落とされたにも拘らず己のAIは喜びを感じる。最高だ。化け物な己に相応しい相手だと! 残りを囮に己も飛ぶ。容易く残りを撃ち落した侍もこちらを捕らえて飛ぶ。 「(はぁぁぁっ!!!!!)」 裂帛の気合を込めて撃ち出される弾丸を右目に直撃させつつ腕を伸ばす! 固い感触と頭を貫く感触は同時に訪れた。地面に叩き付けられ己の「頭」が「外れる」。 「ここまでの手合いとは・・・君とはまた戦いたいものだ」 脇腹を斬られその先のエンジン部分まで貫かれた状態、でも雄雄しく降り立つ侍が「ほざく」。 突き刺さった刀を回収し背を向けるその体を「見据える」。同時に観客の悲鳴が上がる。 「?何!!!!!!!!?」 振り返り驚愕の声。そりゃそうだろう。転がった自身の頭を手に「首無し」が立ち上がったのだから! 悲鳴とリングアナの驚きの声。 自分でも判るくらいに邪悪な笑みを浮かべて相手を見る。その表情は驚きから怒りへと。大方俺がチートでも使用していると思っているんだろう。先んじて声を上げる。 「「本物の頭」が首の上に乗ってるなんて誰が決めたんよ?ルールにも乗ってないで?それにアイツの「頭」はちゃんと体に付いてるしな」 ブーイングを上げようとした観客も静まる。相手は怒りからまた驚きへと。 「・・・!椿まだ終わってないわ!」 そうまだ終わってない。 「存分に暴れて魅せろ!観夜!」 驚愕の表情の中に少しばかり恐怖が見える。 貫かれた頭は停止寸前ながらも自力で宙に浮かぶ。時折火花が見えるのが余計に不気味な事だろう。己は「見えなくなった眼」からもう一つの眼にシフトする。胸と首の間、大きな目の模様が入った拘束服の前面装甲に設けられたもう一つの「眼」に。 ユラリと両手を広げ手首を下へ。貼り付けの罪人の様な構えを取った後初めて声を放つ。 「驚いたようで何よりだ。己はまだ終わっちゃいない!」 走る。慌てて抜刀し対抗したのは流石と言えよう。そのまま打ち合い距離が開く。 己の中で待ち望んだ全力での「大喧嘩」に高揚する。拘束は外れ「頭」は飛び強い敵を相手にする。バトルでこんなに楽しい事はないだろう? 「さぁ、死合う侍!この己を殺して魅せろ!!」 混乱から少しは落ち着いたのか侍は構え己を見る。その表情にいかばかりかの楽しさを見せて。 ガンッ、ガンッ、と打ち合い互いに傷が増える。 奮える感情と一撃毎の衝撃が楽しい。相手もそうなのか少しずつ表情がニヤけている。 「はっ!」 「殺ぁ!(しゃぁ)」 幾度目かの打ち合いで左手の刃がヘシ折れる。構わず右手の刃を振るい相手の刀を弾き飛ばす。 「まだまだぁ!!」 「はっはぁ!!!!」 ウィングの基部から抜き出した仕込みの刃を笑い声と共に迎え撃てば右手の刃も砕けた。 「ぅらぁぁぁ!!!」 「せっっ!!」 振り上げる左脚と刃が火花を散らす。三枚の内外柄から二枚飛ばされる。が、相手も体制が崩れたところを刃の無い腕でので殴る。連打に翻弄される侍、その鳩尾に両手での掌底を決め放つ! 「狼牙!!!」 「がっ!!」 零距離での狼牙掌。腕の拘束服に内臓されたスキルを発動し相手を吹っ飛ばす。でもまだ相手の「眼」はこちらを見据えている。 「くっ・・・まだ・・・」 「・・・・はぁ、はぁ、はぁ」 互いに余力は少ない。「極める」のは次だ! 「往くぞ・・・狂牙!(きょうが)」 「来い武士!(もののふ)」 納刀から居合いの構えで走る侍。残された右脚に力を込め迎える! 「覇覇ぁぁぁぁぁ!!!!!」 「嗚嗚嗚嗚ぉぉぉぉん!!!」 その刃と刃が重なると爆発した。 衝撃に耐え切れず砕かれた地面が煙幕の様に土煙を巻き上げ二人を隠す。 「聞いて良いか?」 「・・・何?」 「技の名を」 「獣牙爆熱脚。言わずもがな拳を蹴りにしただけのものさ」 「そうか・・・蒼天残月。私のはこれだ」 「成る程。流石だ」 場違いな雰囲気だった。バトル、しかもあんな美しさも何もない只々「熱い」だけの。その最後には似合わない友人との会話のような空気だった。 崩れ落ちる事なく彼女は情報の塊と化していく。 「楽しかったぞ・・・狂牙」 「己もだ・・武士」 最後は笑顔で称えあった。また相対(あいたい)ものだと。 『WIN 観夜』 息を飲む声が妙味大きく聞こえた。 土煙で様子が見えなくなったフィールドに立つのは二つの影。次第に晴れると侍の姿は霞と消え勝利判定の音声が流れた。 実況のリングアナも言葉が見付からないのか呆然としていた。ってかこの人「頭」が取れた時のまま固まってないか? ポッドが開いて戻ってきた侍をオーナーの少女が称える。「頑張ったね」と。 『はっ!Σ 勝利「観夜選手」!優勝は彼女です!!!!』 思い出したように宣言するとこれ又思い出したようにブーイングが起こる。今までで一番大きく。 彼女が可哀想だと、そんな姿にしてやるなだと、労わってやれだと。もう自分勝手に喚き散らす。俺は涼しい顔でそれを流す。何とでも言えば良い。俺がそれを笑ってやるから。見てくれだけで判断するなんて何て似非な正義面なんだと。でも相棒はそれが許せなかったらしい。ギャグを外すと大声で吼えた。 「貴様等の正義感を押し付けるな!己がこの姿をしているのは己の趣味だ!それを許し誂えてくれたマスターを馬鹿にするな!外見だけしか見ずに中を知らずに批判する貴様等が何正義面してんだ!!」 静まり返る会場。ブーイングの声を上げていた連中は面食らったらしい。まさか自分達が否定されるなんて思っていなかったんだろう。 「行くぞ」 「マスター!・・」 肩に乗せる。 「言わせときゃええねん。俺等は俺等で楽しみゃな」 「・・・うん」 少々納得いかないようだがこのまま吼えさせても意味はないだろう。それに聞く耳持たんと思うし。 ゲートを潜るとまた会場が騒がしくなったが知った事じゃない。 数分して表彰式となる。 が、俺等はそれを辞退した。会場に戻ったとしても白けるだけだし。 「ごめん。己があんな事言ったから」 「気にすな。それにしても吼えたな」 「ムカついたから。己が言われるのなら判るけど何々だってんだ。マスターが無理やりやってるみたいな事ばかり言いやがって・・・」 未だ怒り収まらない、いや思い出したからか。しかしまぁ何とも俺は思う。 「愛されてんなぁ俺」 「!」 音でも立てそうに赤面する相棒を肩に煙草に火を付け帰宅する。 翌日センターのHPでバトルが公開された。 そのムービーの掲示板は凄まじい量の書き込みがされていた。話の中心は言うまでも無いな。 「よっしゃ、計画通り二つ名が付いたな」 「だね。しかもそれを広めたのって彼女だし」 表彰台でのインタビューで準優勝の侍が言った言葉。そこから観夜の二つ名が付いた。 『狂牙』 狂った牙とは何とも相応しい。本人も気に入っている。でも俺達の中ではそれ以上に安堵があった。 「「THE拘束服にならんでよかった」」 良かった。本当に良かった。 そしてインタビューの最後、侍とオーナーの言葉。 『彼女は本当に大事にされていると思います。そして私はあのオーナーを批判しません。全力で楽しんでいるだけなんだと思います』 初めての擁護だったその言葉に観夜が微笑む。 今までずっと批判されていた俺等を理解しようとしてくれた二人に喜んでいるのだ。無論俺自身も。 「また相対(あいたい)な」 本当に柔らかく笑う彼女。自然と俺も笑みを浮かべる。 「せやな。また大会とかで会うんちゃうか」 「うん。その時はまた・・・」 「「全力で屠るのみ!」」 次を待ち遠しく望む二人だった。 そうそう、三位の騎士とそのオーナーは表彰式で何んか居心地悪そうだった。 もう一個。 大会までにセンターで件の侍とオーナーに出会いよく会うようになった。頑張って口説くとしよう! 「マスター?・・・」 「フル装備で睨むなや・・・・」 口説き作戦は前途多難のようだが、 「ヤキモチとは愛い奴」 「真顔で言うなよ・・・(赤面)」 それもまた一興。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/578.html
前へ 先頭ページへ 次へ ? コンタクトイエロー~第一ラウンド終了 1312時 諸島沖合 B3甲板上(VR空間) 「そんなに私の貞操が奪いたいんですかっ!?」 乱れた髪をなおしつつ素っ頓狂な内容で声を裏返して、途端に自分の言った言葉にマイティは顔を真っ赤にして口元を押さえた。自分はまだ混乱したままなのか。それにしても貞操がどうのとか、そんな言動がでてしまうなんて、自分は変人、いや変神姫なんじゃなかろうか? 「やっぱりマイティはシュリーク(金切り声)だよね」 ねここと一緒に正座して小さくなっていたシエンがおずおずと申し出て、マイティは再び叫んだ。内容は覚えていない。 オービルのおかげでフルコンディションになった装備を纏って、その場から逃げるように再出撃。クリムゾンヘッドに乗り込んだシエンと、簡易装備のシューティングスターのねここが僚機として後方についた。 ◆ ◆ ◆ 同時刻 11番コンソールルーム 誰が見ても一連の光景は単なるコメディにしか受け取れない。 だがマスターだけは、素直に笑えない状況にあった。 マイティはまだこの状況に適応し切れていないのではないか。その上にねこことのドタバタやシエンのどさくさにまぎれた告白が重なって、彼女は不安定になっているに違いない。そんな状態で、いま戦場で幅を利かせているという黄色い翼の五体と戦えるのだろうか。疲労は問題にならないほど回復しているし、装備もオービルという優秀なメカニックのおかげで新品同様になった。一見なにも不都合は無い。 アクセス直後に垣間見せたマイティの新たな問題。おそらく、新しい環境に適応するのに時間がかかる、という問題。これは自分が感じている以上に深刻なのではないだろうか? 神姫としてプリセットで含まれている人間そして人間空間との交流行動、武装神姫としてプリセットされているバトルという環境。 それら以外の部分で、マイティは戸惑う。今まで体験したことの無いほど多くの神姫がいる空間、同じ神姫から間接的にとはいえ「好きだ」と告白された状況。出てくればまだまだあるだろう。バトル自体に問題は無くとも、それ以外の混乱要素がバトルに影響を与えることは十分にありうる。 棄権、という選択肢がマスターの脳裏に現れかかった。 「――とにかく、まずは戦ってみる、か」 誰にともなく呟いて、マスターは椅子にもたれて画面を見つめる。 判断材料が足りない。危ないが――ここは様子を見ることにしよう。 ◆ ◆ ◆ 1315時 諸島上空(VR空間) レッド、ブルーどちらのチームも、すでにその戦力の半分を切っていた。 さっきより閑散としている。もう目と鼻の先に迫っている戦闘空域を望遠で眺めて、マイティは無感動にそう思った。 かといって、先ほどよりも戦いやすくなったわけではないだろう。後に残った者ほど、つまりは運が良い、強いということなのだから。それに双方ともにターゲッティングするべき敵が少なくなった分、自分が狙われる割合も高くなる。 結局、こうむる手間はそれほど低減しない。 しかしあと十五分ちょっとだ。 さすがに、もう過労でぶっ倒れることなどないだろう。 件の五機はすぐに見つかった。戦場の真っ只中で悠々と飛んでいる。うち一機がスノーボウを追いかけている。翼のマーキングまで判別できる距離に近づいていた。白い文字で大きく「4」。 シーカー、ターゲッティング。 「散開。黄色を狙うときはなるべくツーマンセルでやりましょう」 素直にシエンとねここが揃って離れる。二体とも重攻撃戦闘スタイルだが、コンビならその速度の遅さもカバーできるだろう。 マイティはぐんぐん距離を詰めて、イエローの後ろにつける。 BGM Sitting Duck(エースコンバット04・シャッタードスカイ オリジナルサウンドトラックより) 1317時 コンタクトイエロー 「サレンフェイス、援護します」 スノーボウのTACネームを呼ぶ。しかしどうしてサレンフェイス(仏頂面)なのだろうとマイティは疑問に思う。マイティは彼女の普段の性格を見たことがない。マイティと接したときだけ、スノーボウの感情は若干豊かになる。口数も増える。その事実をマイティはまだ知らないし、ましてやなぜスノーボウが感情を表に出さないのかなど思い当たるはずも無い。 《ラジャー、シュリーク。そいつは後ろに撃ってくるわ。マニューバーに気をつけて》 「了解・・・・・・」 といい終える間もなく、そのイエローの顔がこちらを向いた。 いや、全身ごと真後ろにくるりと反転しているのだ。航行軌道を変えずに。 「うっ!?」 ミサイルと機銃弾の雨あられが真正面から殺到してくる。推進力を前方に返して急激なエアブレーキ、武装神姫であるがゆえの機動。慣性を利用し機首を真下に振り向け、ブースト。ぎりぎりのところで射線から逃れる。 アラートが止まない。放たれた四発のミサイルのうち、二発が執拗に追いかけてきている。避けられた二発はノーマルのスティレットミサイルらしかったが、追いかけてきたほうは姿かたちは似ていても高機動にチューンされたまるきりの別物だった。以前の巡航装備ならその推力で振り切れるほどの速度だが、今の機動重視構成では逃げることはできない。迎撃するかミサイルの燃料切れを待つしかない。 が、迎撃しようにもマグネティックランチャーを後ろに向けることができない。自分の最大推力プラス大G旋回でなんとか相対距離を維持できるのである。頭を傾けて後ろを確認しようとすれば空気抵抗が増して危ない。シロにゃんに後ろを向かせてロックオン。スティレットミサイルを迎撃にあてる。 ガラガラガラガラン。翼に出ている四発を全部後ろ向きに落として断続的に発射。 しかし、 「だめです、全然当たってません」 シロにゃんが報告する。 今度はハンドガンで牽制射撃。アルヴォは速射性、カロッテは威力で補い合う。両方、ワンマガジンを撃ち切る。だめだ、当たっていない。 マガジンチェンジはしない。セミアクティブのサイドボードから直接、銃へ装弾される。銃の中からチキ、チキ、と弾が「生えて」くる。バーチャルだからこそできる芸当。 さらに撃つ。撃ち切る。当たらない。急旋回。一瞬ミサイルは目標を見失うが、すぐに振り返って追いかける。 再装弾。撃つ。撃ち切る。当たらない。 追いかけながら回避運動もしている、あのミサイルは。 特殊装備の絶対的な性能アドバンテージ。 マイティの意識に影が差す。 いやな感覚を振り切って、もう一度、再装弾。撃つ。 五発目で一発に命中、迎撃。間を置いて撃ち切る寸前で、もう一発に命中。ミサイルは爆散。 その間にシロにゃんが黄色の4を探し当てていた。推力全開、インメルマンターン。イエロー4は執拗にスノーボウを追い掛け回している。自分が寝ている間に敵から恨みでも買ったのだろうか。 再びイエロー4の後方につく。さすがのスノーボウといえど、そろそろ引き剥がさなければまずい。 《・・・・・・チッ》 通信混戦。それを分かっているかのような舌打ち。まん前の黄色から。 今度は目を離さない。相手がくるりと体をこちらに向けるのが分かった。 その回転している一瞬が大きな隙だった。 この距離ならば当たる。 スティレットミサイルを四発全弾発射。 黄色はちょうど背中を見せている。 当たった。マイティは確信した。 その確信を打ち砕く信じられない光景が、マイティの目の前で繰り広げられた。 相手の反転速度がいきなり上がった。あの速度ではこちら、真後ろで止まれない。止まる必要が無いのだとすぐに分かった。 イエロー4の両手から赤い光条が伸びたかと思うと、迫り来るミサイルをひと撫でした。ライトセイバーだった。 あっけなく四発のミサイルが真っ二つに切られ爆発。 炎の合間から、鬼のような形相をした色黒のアーンヴァルの顔が覗いた。 背筋が凍った。 同時にマイティは、不思議なことにイエロー4の顔を事細かに捉えていた。 インド系に整形されたマスク。つややかなブルーブラックのウィッグ。よく手入れされた整形。オーナーの愛情が込められている。 が、マイティはその愛情がイエロー4自身ではなく、どこかあさっての方向を向いているような気がしていた。 相対距離が同調し、二体の間がぴたりと止まる。 しまった、隙を与えた!? 気づいたときにはイエロー4は赤いライトセイバーを振りかざして、マイティの目前にいた。 やられる! 間に何者かが割り込んだ。 ヘッドセンサー・アネーロの後ろに白い猫の耳が隠してあった。彼女がねこみみを付けていることを、マイティはいまさら知った。 セイバーの熱。切り裂かれる音。マイティは間近で感じた。あまりにもリアリティのあるエフェクト。VRの高性能。 スノーボウがマイティの目の前でポリゴンの塵と化し、消えた。 マイティの瞳から戦意が消えた。 もはや倒す価値も無い。そう判断したらしいイエロー4は、フンと鼻を鳴らして飛び去った。 その後のことは、マイティは覚えていない。ただ、生き延びたことは確かだった。第一ラウンド終了の合図がけたたましく鳴って、われに返った。 世界が消失する。次に出るのはまたあのブリーフィングルームだろう。だがマイティは、このまま消えてしまいたい心持ちだった。 1330時 第一ラウンド終了 中間制空権報告 レッドチームの若干有利 第二ラウンドフィールド選定 「海岸線」 前へ 先頭ページへ 次へ ?
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1637.html
武装神姫…それはテクノロジーが生み出した全く新しいロボットである。 MMSと呼ばれる基本素体にCSCチップを搭載、さらに様々なパーツを使用することで無限の能力を引き出す事ができるのである。 武装神姫と暮らす日常 第四章『種と稲』 べるのと少女は自らの神姫を筐体へとセットする。 「私は何時でも準備OKですわよ」 「私もOKだよ」 『サンタ型ノエル オーナー:美月べるの ランク:C 種型浅葱 オーナー:白雪夜月 ランク:C バトルフィールド:砂漠 .........配置完了』 『システムOK…マスター次も勝ってみせますよ』 「当然ですわ、私が負ける事なんてあり得ないんですから」 『READY』 「頑張ってね、浅葱」 『はいっ、マスター』 『FIGHT』 輝く太陽、風で巻き上がる砂、何処までも遮蔽物の存在しない地平… その中心に数本の筒状のブースターを生やした基本装備のジュビジーの浅葱が立っていた。 「う~…何か居るだけで暑い気持ちに……」 『確かに見ているだけでも暑そうなエリアだね それで相手の位置はわかる?』 夜月の言葉に浅葱は周辺を見回す。 「ちょっと輪郭がハッキリしないけど、それらしいものが前方に」 『OK、それじゃ作戦は何時も通り射撃武器で牽制しつつ近距離戦ね』 「はいっ!」 言って浅葱はブースターを全て点火し前方へと突っ込んでゆく。 砂塵に包まれながらノエルは悠然と佇んでいる。 「マスター、前方に敵影補足 こちらに対して一直線に突っ込んできています」 『ふんっ、自信満々でしたからどんな手を使ってくると思いましたら馬鹿正直に直進とは思いませんでしたわ ノエル、よく引き付けてから一撃できめてさしあげなさい』 勝者の笑みを浮かべながらべるのは言う。 「了解、目標ロック…発射用意……」 ノエルは直進してくる浅葱に狙いを定めトリガーを引く。 『浅葱、回避用意!』 「はいっ」 返事と共に浅葱はブースターを地面に対して吹かし、ロールをかけるかのようなステップで回避しつつ更に接近。 「いきますっ!」 そしてそのままパウダースプレイヤーを構えノエルに対し射撃。 「その程度でっ」 ノエルはその攻撃をシールドで防ぎ、お返しと言わんばかりに背中に装備されているミサイルを乱射する。 「当たりません!」 浅葱は一気にブースターを吹かしノエルの真横をすり抜けミサイルを回避する。 『そのまま後ろを取って!』 「はいっ」 浅葱はノエルの真後ろに移動したところで急停止そのまま射撃を攻撃をかけつつグリーンカッターを構える。 『何をやっていますの!早くあんな神姫けちょんけちょんにしてさしあげなさい!!』 「で、ですがこの装備では旋回能力が…」 『つべこべ言わず早くなさいーっ!!』 「りょ、了解」 重装備故かノエルは直には浅葱の方向へ旋回できずにいた。 「これでっ!」 グリーンカッターの刃を回転させながら浅葱は全速力でノエルに向かって突撃する。 「く…ぅ」 ノエルは咄嗟に数センチ後退するも胸部の装甲版を数枚削がれ更に両腕の武装を数個両断された。 「舐めるなッ!!」 ウェポンラックからショットガンを取り出しすれ違い無防備となった浅葱の背中に撃ち込む。 『浅葱、防御!』 「…っ!」 ブースターで急制動をかけ反転し両腕で防御体制を取る浅葱。 「!! しまっ…」 しかし散弾の弾はコア周辺だけでなく、リアパーツに接続されているブースターにも着弾し爆発四散する。 「ああぅ、きゃぁぁっ!!」 爆発の衝撃に吹き飛ばされ砂地に転がる。 『浅葱っ!!』 「これで、止めっ!」 ノエルは全身の砲身、銃身その他諸々の兵器を浅葱に向け一気に発射する。 「――――ッ!」 そのすべての弾は浅葱に直撃し、何度も爆発を起こし周りの砂を吹き飛ばす。 「やった?」 そして爆発が止んだ後は、辺り一体に煙が立ち込めていた。 『おほほほ、やはり口だけだったご様子ですわね』 その様子を見てべるのは笑う。 『………』 『自分の神姫が圧倒的な差で負けて声もでないようですわね、まぁ仕方ないことですけれど』 『………まだ終わっていないですよ』 『へ、えっ、え、そ、そんな嘘にだまされる私ではありませんですわよ!』 夜月の言葉にべるのは慌てふためく。 『なら証拠を見せてあげるよ 浅葱っ!』 「はい、マスター!」 浅葱の声とともに黒煙の中から金色の稲のエフェクトが現れだす。 『システムキドウ…』 「システム起動…モードB」 『バトルモード・シェルプロテクションヘイコウ…』 「キュベレー起動…損傷問題なし」 『ゼンシステムオールグリーン…キドウカンリョウ…』 「これが私の本気ですっ!!」 声と共にキュベレーで風を起こし黒煙を噴き飛ばす。 同時に稲のエフェクトが二人の間を舞い上がる。 「な、なに…っ」 『何であれだけの攻撃を受けて立っているのっ!?』 状況を飲み込めずべるのとノエルはただただ混乱するばかりだった。 『種型の打たれ強さを侮らないほうがいいですよ』 「その通りです!」 言って浅葱はキュベレーを構える。 『くっ…ならばもう一度火達磨にしてさしあげなさい!』 「は、はいっ」 ノエルは銃器を構えなおし浅葱に向かって発砲する。 『浅葱、Harvest!!』 「はいっ」 浅葱は片側のキュベレー振り上げ、片側のキュベレーを自身を守るように前に出し、爆発せずに残っているブースターを点火し一気に突撃をする。 「このっ、とまりなさいっとまりなさいってばっ!!」 ノエルの銃撃をキュベレーで弾きながら浅葱は更に距離をつめて行く。 (マスター見ていてください…) もう互いの距離は数cmといった所で浅葱は更にスピードを上げつつ振り上げたキュベレーをノエルのほうへと突き出す。 「これが私の必殺技ですっ!!」 「そ、そんな…わ、わたしが負け…」 ノエルが言葉を言い切る前にそれを遮る様にしてキュベレーの刃が胸に深々と刺さる。 『サンタガタノエル…コアシステムキノウテイシヲカクニン……Winner Yaduki』 「お疲れ様、浅葱」 「はい、がんばっちゃいました」 夜月は、筐体から出てきた浅葱を手に乗せ頭を撫でてやる。 「夜月さーん」 そんな二人の所にゆかり達がやってくる。 「凄い戦いだったよー、あたし胸がスーッとしちゃった」 敗北の時の悔しそうな顔が嘘だったかのような満面の笑みを浮かべながらクラリスは言う。 「あ、これがゆかりさんの神姫ですか?」 クラリスとアリエスを指差しながら夜月は言う。 「そうそう、可愛いでしょ」 我が子を自慢するかのようにゆかりは言う。 「昨日からずっとこの調子なんだよなぁ」 隣で卯月が呆れ気味に言う。 「あっれー確かマスターもおんにゃじだったような…」 「わーわーそれは言っちゃダメーっ!」 「むーぐーむぐぐー」 卯月は慌ててラキの口を塞ぐ。 「まぁそれは置いておいて、ゆかりさん余り最初から無茶をしちゃダメですよ」 「うー…」 「ちゃんとトレーニングと自分にあった実戦をこなせばクラリスちゃんの重装甲も生かせるようになりますからね」 クラリスを見ながら夜月は言う。 「何か年下に教えられるって複雑ぅ…」 「きぃーくやしいくやしいくやしいですわー!」 「マ、マスター…落ち着いてください」 ハンカチの角を口に咥えて引っ張っているべるのに対してノエルは言う。 「これで、わかったかな? ここには貴方より強い人がいくらでもいるって」 「ふ、ふんっ た、たまたま私に勝てたからと言っていい気にならないことですよ それに筐体の調子が悪かったのかもしれないですし何よりあの不可解な防御力!何か不正していないと言う保障は…」 「筐体の事を悪く言うのは勝手だが俺の夜月を悪く言うのは頂けないな」 「筐体の事も気にしたほうがいいと思うけどねぇ」 べるのは話に割り込んできた声の主のほうを見るとそこには一組の男女が立っていた。 「貴方達、私の大事な話に割り込んで一体何様のつもりですの!」 「ただの店長様とその清楚な妹様のつもりなんだけどねぇ」 女が肩をすくめて言う。 「まったく、騒がしいと思って来てみれば……お前、余り他のお客様に迷惑かけるようならこちらにも考えがあるからな」 「な、なによ…」 「まずはここいら一帯の模型店への出入り禁止令、後は営業妨害で警察に突き出す事もできるが…」 「な、ななななななっ」 男の発言にべるのは目を丸くする。 「貴方、私を誰だと思っているの!私は玩具会社の社長令嬢よ!こんなお店なんてパパに頼めば…っ」 「どうなるってんだい?」 「え?」 「もしここを含めて多くの店があんたのとこの玩具を入荷しなくなったらどうなるか……わかるよね?」 「そ、そんなこけおどしには騙されませんわよ!」 「こけおどしかどうか…試してみるかい? 玩具店間の繋がりを甘く見ないほうがいいよ」 ニヤリと笑みを浮かべつつ女は言う。 「ぐ…」 「マ、マスター」 「まぁ、今日はこのまま引き下がるなら不問とするが…どうする?」 「ふ、ふんっ きょ、きょうの所は引き下がりますが 次はこうはいきませんわよ!」 男を指差しながらべるのは言う。 「ノエル、帰りますわよ!」 軽く涙目になりながらべるのは言う。 「は、はい!」 一礼してからノエルはべるのの肩に乗る。 「ちょっと今のはやりすぎだったような気がするが…」 べるのが完全に見えなくなってから卯月は二人に言う。 「まぁいいじゃないさ、あーいうのはアレくらいいっとかなきゃなおらないよ」 笑みを浮かべながら女は答える。 「ていうか霜月さんは楽しんでただけの様な…」 その発言に対して夜月がぼそりと言う。 「そう言えば、霜姐も師走兄貴も店の切り盛りしてなくて大丈夫なんスか?」 店の人間が全員二階に来ている現状に対し卯月が突っ込みをいれる。 「っと、しまった花月と柊に任せたままだった」 師走と呼ばれた男が思い出したかのように言う。 「霜月、戻るぞ」 階段の方へと向かいつつ師走は言う。 「はいはい、ついていきますよっと」 霜月と呼ばれた女はそれについてゆく。 「あー私も戻ります~」 浅葱を肩に乗せ夜月も二人について行く。 「それじゃ俺達も一階に行くか?」 ゆかり達を見つつ卯月は言う。 「賛成にゃー」 「私はそれでいいよ~」 その後ゆかり達は一階で装備を見たり、師走達と戦略について話し合ったりしてから帰路についた。 ―次回予告― 「べるのを一度は退ける事に成功したゆかり達」 「倒したのは浅葱にゃんだけどにゃー」 「しかしべるのはもうリベンジの用意をしていた!」 「早いにゃー」 「何と今度は料理対決!」 「魚なの魚なのかにゃ!?」 「果たしてゆかりは勝てるのか!?寧ろ料理はできるのかっ!?」 「今さらりと酷いとこいったにゃ…」 「次回クッキングファイターゆかり第五話『私の想いを受け取って!』 二人の愛が料理を変える…」 「そのネタは色々まずいと思うのにゃ…」 続く? 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1527.html
新しき波浪と旋風の、前にある物 “聖夜”も過ぎ、帳簿上の仕事納めが目前となった。お台場で巻き起こる “聖戦”を前に、年の瀬の秋葉原は活気に満ちているが……しかし、この MMSショップ“ALChemist”は別だ。普段より客が多少増えた程度であり、 私・槇野晶は、優雅に紅茶を頂きながら店番をしていたりする訳だ……。 「ふぅ……ここは、外の喧噪が嘘の様だな。帳簿作成も大方終わり、と」 「お疲れ様なんだよマイスター。在庫検品も、パーツ類は終わりだもん」 「あ。通販の最終発送分も、宅配便のお姉さんが先程持っていきました」 「友人さんへの“年賀メール”も、雛形の打ち込みは完了ですの~っ♪」 「皆、御苦労だな。後出来るのはメールの個別調整と掃除位の物か……」 とは言え、前者は“ながら作業”でも十分な量だ。後者は一見大変だが 普段から神姫達が自由に動き回れる様に……何より美観と健康の為に、 棚の上や壁の縁……更には細かい隙間なども、きっちり掃除している。 その為に、掃除の分量も知れていた。地下に住まうと、この辺はどうも 神経質になりすぎてな?しかも一応は精密機械である神姫達と一緒だ。 「……お前達の為に普段から埃は徹底除去しているからな、多少は楽だ」 「余裕はありますの、マイスター?……お出かけはしないでしょうけど」 「有無。年越しを楽しむ余裕はありそうだ、そして出かけないのも然り」 「え?イベント好きのマイスターですし二年参りとかするかなって……」 「行事は好きだが、人混みに好んで飛び込んでいく性分でもないのでな」 「それはちょっぴり意外なんだよ……神姫のイベントとかは例外かな?」 クララの指摘は確かにその通りだった。が、他にもちょっと理由がな? “その日”が近い事もあってか、例年通りなら正月は大人しく過ごす。 ロッテと過ごしていた今年の三ヶ日も、それは変わらなかった……が、 来年はどうする……初詣位は良いか?“妹”も増えた事だしな、有無。 「……ふむ、では天候次第だが……近所の神社にでも詣でてみるか?」 「いいんですの、マイスター?それはそれでわたしも嬉しいですけど」 「構わんさ。お前達と過ごす様になり私も代わった、という事だろう」 「あ、ありがとうございますっ!今から、願掛けする事決めないと!」 「ボクは御神籤が楽しみかな。大吉が出てくれると嬉しいんだよ……」 ロッテが若干心配そうな雰囲気だった物の、私の決定で納得したらしい。 ……彼女だけは“その日”を『知っている』からな。心配してくれるのは 当然と言えたかもしれん。しかし今、私には前へ踏み出す努力が必要だ。 何を、だと?……何れ分かる事だろうな。そんな予感がするのだ、有無。 「まぁ、そういう訳でのんびり年末年始を楽しむ余裕はあるという訳だ」 「はいですの、それなら……わたしも精一杯楽しんじゃいますの~っ♪」 「そうと決まれば、お節等の買い出し等もせねばならんな。出来合だが」 「……流石に一からお重を作るのは、大変だと思うんだよマイスター?」 「ですね~、そこはしょうがないかもしれません。予約も手遅れですし」 鈴が鳴る様に笑うアルマ、冷静にツッコミを入れるクララ。そして何より 己もはしゃぎつつ、それを眩しそうに見守るロッテ。思えば皆の個性を、 最近は特に実感する様になってきた。“私達”の生活に、互いが欠かせぬ 存在となってきた証であろう。となれば、来年は益々皆を大事にしたい。 「……でも、来年は皆どうなっちゃいますの?ふと、思ったんですけど」 「あ、それ……あたしも思ってたんですよロッテちゃん。何かこう……」 「何かがありそう、って予感かな?それならボクも感じるんだよ、うん」 「皆、認識を強めつつあるか……何なのだろうな、この謎めいた感情は」 しかし、保守的ではいられない何かが起こる。私達の直中を吹き抜ける、 新鮮な風の予感を、全員が感じていた。それは、年の瀬が近付くに連れて “確信”へと変わりつつある程の、強い感覚だ。それは大きな嵐なのかも しれないし、爽やかな風なのかもしれん……不安と期待の混ざった直感。 ともあれ得体の知れない“何か”を、この時点の私達は感じていたのだ。 「……まぁ、気に病んでも仕方がないと言えばその通りだな。どれ……」 「あ、マイスター!わたしは、あったかいダージリンがいいですの~♪」 「……紅茶を入れてやろうか、と言おうとしたのに勘が冴えるなロッテ」 「温かい紅茶が丁度欲しくなる様な話のタイミングだったんだよ、うん」 「ええ……席を立ち上がった時に、そんな雰囲気がしましたからねっ♪」 「む゛、そ……そんなに分かりやすいか私は?何だか少々ショックだぞ」 思考というか間合いを読まれてしまい、私はつい紅くなる。それを見て、 三姉妹はおかしそうにまた微笑むのだ。その笑顔が、堪らなく可愛いッ! 多分私の頬も盛大に緩んでいるのかも知れん……全く、罪作りな娘らだ。 「と、動揺してばかりもいられぬな。まだ年末年始の準備があるのだぞ」 「……マイスター、ならそろそろ締めちゃう?“嵐の前の静けさ”だよ」 「そう、だな……“聖戦”組も今日は来ぬだろうし、閉じていいだろう」 「あ。それなら一足先に“本日終了”の看板を、外に出してきますね?」 「有無、頼むぞアルマや。その間に、紅茶を一通り揃えてしまうからな」 「外は寒いですから早めに帰ってきてくださいの、アルマお姉ちゃん♪」 “新しき”何かへの予感と“古き”何かへの畏れ。その精算が出来る様、 来年は一層奮起していきたい、と私は思う。ロッテ達にも、それぞれ別の “抱負”や“意気込み”が在る事だろう。私は、それも叶えていきたい。 ……その為に、今だけはゆったりと。静けさをたっぷりと、楽しもうか。 「うぅぅ……さ、さむいです~。早く紅茶ください~、マイスター……」 「情け無い声を出すでない、アルマや。もうすぐ蒸れる、すぐに出そう」 「……ボクらは凍え死んだりしないから、心配ないと思うんだよ?うん」 「それでも、寒いよりは暖かい方がいいですの~♪身も心も、ね……?」 ──────来年は、もっと皆が幸せになれます様に。 次に進む/メインメニューへ戻る